『封魔の城塞アルデガン』第1部:城塞都市の翳り
「私はこれからアルデガンの外へ出向かなくてはならない。人間相手に魔法を使うわけにはいかないのだから」
鐘楼から正午の鐘がきこえてきた。
「いかなければならないわ、もう。私も、あなたも」
アザリアは椅子から立ち上がった。
「別々の道を行くことになってしまったけれど、どこかで思いがけない会い方をするような、いえ、そうなりたいものね」
「あの、一つだけ教えて下さい。そのお友達の方はどうなられたのですか……?」
慄きを隠せぬ愛弟子の、あのアルマの言葉にも似た問いかけにアザリアは思わず目を伏せたが、意を決し姿勢を正した。癒えぬ古傷のごときその痛みに、窺いきれなかった結末を不安のあまり問わずにいられなかった己を悔いるリア。だが時遅く、恐るべき答えが耳に届いた。
「アルマを襲った吸血鬼は私たちを嘲笑いながら洞窟の中を逃げ回ったわ。奴に追いつけずにいるうちに彼女は恐怖に擦り切れて絶望に屈し、とうとう吸血鬼に精神を乗っ取られて襲いかかってきたの」
立ち上がったアザリアは扉を開き、背を向けたまま告げた。
「私が焼き尽くしたのよ。この手で、アルマを」
第2部:洞窟の戦い 前半 →
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作品名:『封魔の城塞アルデガン』第1部:城塞都市の翳り 作家名:ふしじろ もひと