神宮球場の精霊(ライダー!シリーズ・番外編)
「カットバセー! シンジ!」
陰陽師アベノセイコこと安倍晴子は神宮球場の一塁側スタンドに陣取っていた、児童養護施設のスタッフや子供達も総出である。
実は『ジンジ』こと河原崎真二は晴子が勤務していた児童養護施設出身、人並み外れた運動神経の持ち主だったシンジは野球の強豪高にスカウトされ、甲子園で活躍した後にプロ野球・ヤクルトスワローズに入団し大活躍中なのだ。
今日は彼の招待で施設まるごと応援に来ている。
シンジは決して体が大きい方ではない、しかし、プロ入り後、高校時代から定評があった俊敏な動きとグラブ捌きを存分に発揮して一年目から一軍昇格を果たし、レギュラーだったベテランを守備力で凌駕して時折起用されるようになると、二年目にはその俊足を生かすべくスイッチヒッターに転向、左打席では叩きつけるバッティングで内野安打を量産するようになりレギュラーに定着、三年目の今シーズンはすっかり人気選手の仲間入りを果たしている。
「ゥワー!」
神宮球場の右半分がどっと沸いた。
一回の裏、トップバッターのシンジが三遊間へのゴロを放つと、相手ショートの懸命なプレーにもかかわらず、シンジはボールよりも一足早く一塁ベースを駆け抜けたのだ。
ノーアウト一塁、普通はそれほど動じるようなピンチではない。
しかしランナーがシンジの場合は別だ、ピッチャーは常に盗塁を警戒しなければならずバッターへの集中力を欠いてしまいがちになる、今日のピッチャーも二度、三度と牽制球を送り、シンジを一塁に釘付けにしようとするが、それはある意味逆効果だった、シンジはその間にピッチャーの牽制の癖を見抜いていた。
再びスタンドが沸く、シンジが鮮やかな盗塁を決めたのだ。
そして二番打者のセカンドゴロの間に三塁を陥れると、三番打者の外野フライでタッチアップ、楽々とホームベースを駆け抜けた。
内野安打一本、あとは内野ゴロと外野フライでスワローズは一点先制したわけだが、相手ピッチャーは打たれたわけではない、シンジの内野安打も普通なら討ち取っていた当たりだ、それで点を取られると言うのはソロホームランを浴びた一点よりも堪える。
守ってもシンジはスタンドを沸かせる、ワンアウトランナー一塁、バッターは四番打者、そのピンチに四番が放った打球はピッチャーの足元を鋭いゴロで抜け、センター前に抜けるかと思われたが、ショートのシンジが横っ飛びでボールをグラブに収めると逆ハンドでセカンドにトス、そしてボールは一塁に転送されてダブルプレー、相手のチャンスを一瞬にして摘み取ってしまったのだ。
五回を終わって3-0でスワローズのリード、いつもならばそこでグラウンド整備員が現れるはずなのだが……。
「この球場はワタシが占拠するアルよ」
現れたのは整備員ではなく、ショッカーの幹部・フー・マンジューだった。
そして、彼の傍らには30メートルはあろうかと言う巨大な蛇が……。
せっかくの好ゲームを邪魔されたファンフー・マンジューに盛大なブーイングを浴びせかける、ヒー・マンジューの周りを固めた戦闘員が大刀を振りかざして見せても怯む様子もない。
「この蛇を甘く見ない方がヨロシ、マンシャンビット・ヴァイパー言って、世界最大の毒蛇アルよ、しかもワタシが魔術をかけて更に大きくしたアル、毒もたっぷり持ってるアルよ」
ヴァイパーが鎌首を上げてスタンドを舐めるように見渡すと、その恐ろしげで気味の悪い姿にさすがにブーイングも止んだ。
「この球場はショッカーが頂くアル、お前たち、みんな今すぐ出て行くほうが身のためアルよ」
マンジューが勝ち誇ったように宣言すると、一度はひるんだファンが一斉に反発した。
「フザけるな!」
「ショッカーの思い通りにはさせないぞ!」
「ここはスワローズと俺たちの球場だ!」
グラウンドレベルにいる選手たちも、一斉にバットやボールを手に身構えた。
「聞き分けがないアルね、ヨロシ、これでも食らうがいいアル……ヴァイパー、やるヨロシ」
ヴァイパーは毒を吐きかけることが出来る、大きく口を開いたかと思うと、毒腺から大量の毒を一塁側スタンドに向けて噴射した。
危うし! スワローズ応援団!
だがしかし、その攻撃は無為に終わった、なんと応援団は一斉に傘をさして毒液の直撃を防いだのだ!
「な……何故みんな傘を持ってるアルか? 降水確率は0%アルよ!」
その言葉に応援団の一人が応えた。
「ふん! 見たところ中国人のようだ、知らなかったと見えるな、スワローズの応援団はいつだって傘を持ってるんだよ、傘をこうやって上下に振って応援するのがスワローズ名物なのさ、それっ!」
湧き上がる『東京音頭』、球場全体が一つになっての大合唱にマンジューが怯む。
「た、確かに知らなかったアルよ……でも、ヴァイパーは毒を吐くだけじゃないアル、毒牙も持ってるアルよ、ヴァイパー、噛みつくヨロシ!」
ヴァイパーが鎌首を持ち上げたままスタンドめがけて這い出す、だがその時、白球がヴァイパーの顎を捉えた。
「大切なファンを毒牙にかけるなんてことを俺たちが許すとでも思ったか!」
シンジが自慢の強肩でボールをヴァイパーの顎に命中させたのだ。
それを合図にしたかのように選手たちがボールを投げつける。
だがヴァイパーもさるもの、不意を衝かれたシンジの一撃は食らったものの、雨あられと投げつけられるボールは俊敏で滑らかな動きでことごとく避けてじりじり、ぬめぬめとスタンドに向かう。
「くそっ……おい! 蛇、こっちだ」
「あっ、シンジ」
シンジがグラウンドに走り出すと、ヴァイパーの注意がそちらに向かった。
「こっちだ! 俺に追いつけるか?」
シンジは自慢の快足を飛ばし、ランニングローでボールをぶつけてヴァイパーを足止めしようとするが、相手は巨大な蛇、動作はゆっくりに見えても実際にはかなり速い、シンジは次第に間を詰められて行く。
「そうはさせないわよ!」
その時、スタンド最前列に走り出てダッグアウトの屋根に仁王立ちになった女性、そう、安倍晴子こと、陰陽師アベノセイコだ。
「これでもくらいなさい!」
強力な気功波、カメハメ波をヴァイパーに向けて放つとさすがの大蛇も怯んだ、しかしまだそれでだけは倒せない。
「くっ……もっと大きな『気』が必要だわ……」
セイコが歯噛みすると、ライトスタンドの一角がまばゆく輝き始めた。
「あれは……?」
「あそこは……岡田さんの祭壇のある場所だよ!」
シンジに憧れて野球をやっている児童養護施設の男の子たちが叫んだ。
岡田さん……岡田正泰氏は1952年、現在の東京ヤクルトスワローズが国鉄スワローズとして産声を上げて間もない頃から50年間にわたってスワローズの私設応援団長を務めた伝説の人物。
当時人気球団ジャイアンツの影に隠れて不人気だったスワローズ、神宮球場はジャイアンツの本拠地・後楽園球場とはいくらも離れていないため、ホームゲームでもファンの数でジャイアンツに圧倒されていた。
陰陽師アベノセイコこと安倍晴子は神宮球場の一塁側スタンドに陣取っていた、児童養護施設のスタッフや子供達も総出である。
実は『ジンジ』こと河原崎真二は晴子が勤務していた児童養護施設出身、人並み外れた運動神経の持ち主だったシンジは野球の強豪高にスカウトされ、甲子園で活躍した後にプロ野球・ヤクルトスワローズに入団し大活躍中なのだ。
今日は彼の招待で施設まるごと応援に来ている。
シンジは決して体が大きい方ではない、しかし、プロ入り後、高校時代から定評があった俊敏な動きとグラブ捌きを存分に発揮して一年目から一軍昇格を果たし、レギュラーだったベテランを守備力で凌駕して時折起用されるようになると、二年目にはその俊足を生かすべくスイッチヒッターに転向、左打席では叩きつけるバッティングで内野安打を量産するようになりレギュラーに定着、三年目の今シーズンはすっかり人気選手の仲間入りを果たしている。
「ゥワー!」
神宮球場の右半分がどっと沸いた。
一回の裏、トップバッターのシンジが三遊間へのゴロを放つと、相手ショートの懸命なプレーにもかかわらず、シンジはボールよりも一足早く一塁ベースを駆け抜けたのだ。
ノーアウト一塁、普通はそれほど動じるようなピンチではない。
しかしランナーがシンジの場合は別だ、ピッチャーは常に盗塁を警戒しなければならずバッターへの集中力を欠いてしまいがちになる、今日のピッチャーも二度、三度と牽制球を送り、シンジを一塁に釘付けにしようとするが、それはある意味逆効果だった、シンジはその間にピッチャーの牽制の癖を見抜いていた。
再びスタンドが沸く、シンジが鮮やかな盗塁を決めたのだ。
そして二番打者のセカンドゴロの間に三塁を陥れると、三番打者の外野フライでタッチアップ、楽々とホームベースを駆け抜けた。
内野安打一本、あとは内野ゴロと外野フライでスワローズは一点先制したわけだが、相手ピッチャーは打たれたわけではない、シンジの内野安打も普通なら討ち取っていた当たりだ、それで点を取られると言うのはソロホームランを浴びた一点よりも堪える。
守ってもシンジはスタンドを沸かせる、ワンアウトランナー一塁、バッターは四番打者、そのピンチに四番が放った打球はピッチャーの足元を鋭いゴロで抜け、センター前に抜けるかと思われたが、ショートのシンジが横っ飛びでボールをグラブに収めると逆ハンドでセカンドにトス、そしてボールは一塁に転送されてダブルプレー、相手のチャンスを一瞬にして摘み取ってしまったのだ。
五回を終わって3-0でスワローズのリード、いつもならばそこでグラウンド整備員が現れるはずなのだが……。
「この球場はワタシが占拠するアルよ」
現れたのは整備員ではなく、ショッカーの幹部・フー・マンジューだった。
そして、彼の傍らには30メートルはあろうかと言う巨大な蛇が……。
せっかくの好ゲームを邪魔されたファンフー・マンジューに盛大なブーイングを浴びせかける、ヒー・マンジューの周りを固めた戦闘員が大刀を振りかざして見せても怯む様子もない。
「この蛇を甘く見ない方がヨロシ、マンシャンビット・ヴァイパー言って、世界最大の毒蛇アルよ、しかもワタシが魔術をかけて更に大きくしたアル、毒もたっぷり持ってるアルよ」
ヴァイパーが鎌首を上げてスタンドを舐めるように見渡すと、その恐ろしげで気味の悪い姿にさすがにブーイングも止んだ。
「この球場はショッカーが頂くアル、お前たち、みんな今すぐ出て行くほうが身のためアルよ」
マンジューが勝ち誇ったように宣言すると、一度はひるんだファンが一斉に反発した。
「フザけるな!」
「ショッカーの思い通りにはさせないぞ!」
「ここはスワローズと俺たちの球場だ!」
グラウンドレベルにいる選手たちも、一斉にバットやボールを手に身構えた。
「聞き分けがないアルね、ヨロシ、これでも食らうがいいアル……ヴァイパー、やるヨロシ」
ヴァイパーは毒を吐きかけることが出来る、大きく口を開いたかと思うと、毒腺から大量の毒を一塁側スタンドに向けて噴射した。
危うし! スワローズ応援団!
だがしかし、その攻撃は無為に終わった、なんと応援団は一斉に傘をさして毒液の直撃を防いだのだ!
「な……何故みんな傘を持ってるアルか? 降水確率は0%アルよ!」
その言葉に応援団の一人が応えた。
「ふん! 見たところ中国人のようだ、知らなかったと見えるな、スワローズの応援団はいつだって傘を持ってるんだよ、傘をこうやって上下に振って応援するのがスワローズ名物なのさ、それっ!」
湧き上がる『東京音頭』、球場全体が一つになっての大合唱にマンジューが怯む。
「た、確かに知らなかったアルよ……でも、ヴァイパーは毒を吐くだけじゃないアル、毒牙も持ってるアルよ、ヴァイパー、噛みつくヨロシ!」
ヴァイパーが鎌首を持ち上げたままスタンドめがけて這い出す、だがその時、白球がヴァイパーの顎を捉えた。
「大切なファンを毒牙にかけるなんてことを俺たちが許すとでも思ったか!」
シンジが自慢の強肩でボールをヴァイパーの顎に命中させたのだ。
それを合図にしたかのように選手たちがボールを投げつける。
だがヴァイパーもさるもの、不意を衝かれたシンジの一撃は食らったものの、雨あられと投げつけられるボールは俊敏で滑らかな動きでことごとく避けてじりじり、ぬめぬめとスタンドに向かう。
「くそっ……おい! 蛇、こっちだ」
「あっ、シンジ」
シンジがグラウンドに走り出すと、ヴァイパーの注意がそちらに向かった。
「こっちだ! 俺に追いつけるか?」
シンジは自慢の快足を飛ばし、ランニングローでボールをぶつけてヴァイパーを足止めしようとするが、相手は巨大な蛇、動作はゆっくりに見えても実際にはかなり速い、シンジは次第に間を詰められて行く。
「そうはさせないわよ!」
その時、スタンド最前列に走り出てダッグアウトの屋根に仁王立ちになった女性、そう、安倍晴子こと、陰陽師アベノセイコだ。
「これでもくらいなさい!」
強力な気功波、カメハメ波をヴァイパーに向けて放つとさすがの大蛇も怯んだ、しかしまだそれでだけは倒せない。
「くっ……もっと大きな『気』が必要だわ……」
セイコが歯噛みすると、ライトスタンドの一角がまばゆく輝き始めた。
「あれは……?」
「あそこは……岡田さんの祭壇のある場所だよ!」
シンジに憧れて野球をやっている児童養護施設の男の子たちが叫んだ。
岡田さん……岡田正泰氏は1952年、現在の東京ヤクルトスワローズが国鉄スワローズとして産声を上げて間もない頃から50年間にわたってスワローズの私設応援団長を務めた伝説の人物。
当時人気球団ジャイアンツの影に隠れて不人気だったスワローズ、神宮球場はジャイアンツの本拠地・後楽園球場とはいくらも離れていないため、ホームゲームでもファンの数でジャイアンツに圧倒されていた。
作品名:神宮球場の精霊(ライダー!シリーズ・番外編) 作家名:ST