いつか君が前を向く日まで
省吾と浦島警官が下りてくる。
交通課の職員が浦島警官に近づき
交通課「被害者は女子高生で至急市内の病院へ搬送されました。運よく、被害者は軽傷で済んだようですが、加害者は猛スピードで逃げた模様です」
聞いている浦島警官と省吾。
交通課交通事故係職員が状況を捜査している
しまくんが息を切らして走ってきた。
省吾「しまくん」
しまくん「(睨んで)遅かったか」
省吾「遅かったかって?」
しまくん、事故現場に歩み寄り、フォトミラーを発見。
しまくん、フォトミラーを口で加え、省吾に近づく。
省吾「(受取り)お姉ちゃんのフォトミラーだ。まさかお姉ちゃんが」
しまくん「だから行くなって止めたのに」
省吾「まさか、交通事故に遭うなんて思わないでしょ、」
クロッチが、息を切らしながらとことこ近づいてくる
しまくん「クロッチ、どうしてここへ」
クロッチ「犯人を見た。場所も分かった」
しまくん「でかしたなクロッチ」
猫同士抱き合う。
省吾「何してん」
しまくんが省吾に耳打ちをする。
省吾「犯人を見た?!」
クロッチと、しまくん。
省吾、浦島警官に近づいて
省吾「あの信じないと思いますけど、猫たちが犯人を見た、と。」
浦島警官、猫を見る
浦島「は?猫が犯人を見たと君に言ったのか。この状況で冗談通じると思う?まじ、頭おかしい」
浦島、頭を示す。
省吾の肩をポンポンと叩く手。
省吾、振り向くと、同級生の優(14歳)が立っている。
省吾「優君、なんでここにいんの。学校行かないでなにしてん」
優「学校いってもな、面白くないねん」
省吾「学校は面白いから行く、面白くないから行かない、というとこじゃないねん」
優「不登校のおまえから言われたくないわ。それより僕もひき逃げ犯人見たで」
浦島「見たのか」
優「僕が見たのは丁度学生服の女の人が轢かれた後だった。急スピードで逃げる爺さんの顔も見たで。そのあと黒い猫が追いかけて行った。そう、この猫や」
優、クロッチを指さす。
にこにこしているクロッチ。
浦島警官「(顎に手を携えて)君も見たのか」
省吾「お巡りさん、犯人が証拠を隠滅しないうち早く捕まえましょ」
浦島警官「場所がわからん」
しまくんが省吾のズボンを叩き、
しまくん「クロッチが知ってるって」
省吾「(浦島にクロッチを抱き抱え見せて)こいつが知ってます」
浦島警官「また猫か。僕が信用すると思う。第一、パトカーないし、あっても運転できないし」
交通課事故係の職員が割り込んで
事故係「私が運転します、いきましょ」
〇 住宅 玄関先
浦島警官がピンポンと鳴らす。
爺が顔を出す
爺「何か」
浦島警官「実は先ほど交通事故がありまして、あなたを見たという者がいまして」
爺「どこの誰や」
省吾、優、事故係、しまくん、クロッチがいる。
省吾「(指を指して優とクロッチを)この人と猫」
爺「ふん、わしゃ、知らん。ずっと家でテレビ見とったで」
クロッチ「(省吾に、軽自動車のヘッドランプを指さし)これが証拠だよ」
省吾、軽自動車の前に座り込んで見る。
省吾「お爺さん、このヘッドランプとバンパー壊れてますけど」
爺「ああ、それは昨日公園で誰かにいたずらされて壊されたんじゃよ」
浦島警官「それでは交通課交通事故係を呼んで検証させていただきますが、もしも嘘だったら偽証罪も追加されますよ。信号無視、ひき逃げ、偽証罪。いいんですか」
浦島警官睨む。省吾、クロッチ、しまくん、優も同様に睨む。 爺、困った顔。
〇 市内の病院 櫻の居る病室
ベッドから上半身起き上がっている櫻、左側の腕と脚にぐるぐると包帯が巻いてある。
省吾と優が花束を持って立っている。
省吾「しまくんやクロッチのおかげだよ。」
櫻「そうなの、しまくん達が犯人を捕まえてくれたの?あれ、しまくん達は」
省吾「猫たちは病室に入れないから、駐車場で一緒に犯人探しに協力してくれた警察のおじさん達と一緒にいるよ」
櫻「しまくんに逢いたいな」
ドアが開いて、省吾たちと同級生の静香(14歳)が片方の松葉杖を突いてはいってくる。
優「静香さん!」
静香、省吾に、にっこり微笑む。省吾もにっこりする。
櫻「静香ちゃん、明日退院だって」
優「やっと治ったんだ。一か月過ぎたもんね」
そんなこと知らない、という感じの省吾。
静香「でもまだ松葉杖が必要なの。明日から学校へ行くの大変だ」
省吾、目がきらりと光る。
櫻「省吾、静香ちゃんを学校までフォローしてあげたら」
優「僕も手伝います!」
優、片手を挙手する。
省吾「(優の手を下ろし)僕一人でも十分だよ。僕が静香ちゃんを学校まで送っていくよ」
櫻「ついでに一緒に勉強したら」
省吾「(片手をあげ)はい、しまーす」
優「僕も勉強しまーす」
櫻「じゃ、登校拒否は今日で終了ね」
省吾「はい登校拒否は今日で終わりでーす」
静香「じゃ、明日からよろしくお願いします」
静香、ぺこりと頭を下げる。
〇 病院駐車場
〇 軽自動車のパトカー内
省吾、優、クロッチ、しまくん、浦島警官、交通課職員が乗っている軽自動車内。
しまくん「なんだ、結局はそっちか。猫魂注入は最初から要らんかったな」
《おわり》
作品名:いつか君が前を向く日まで 作家名:根岸 郁男