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百代目閻魔は女装する美少女?【第三章】

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翌日の授業は午前中で終わり。
「何だかお腹が空いたわね。」
 家に帰るなり、由梨が言いだした。
 食事については、数日前に由梨と話していた。
『「幽霊でも何か食べないといけないということなのか?」
「別に。何も食べなくても生きていける。って、死んでるけど。死んでるんだから栄養素を摂取する必要はないわ。でも現世での癖というか、趣味ね。いやアタシはセレブだから嗜みね。何か、こう口にしないと気が済まない時があるのよ。」』
 ということで食べる必要はないが、習慣は残っているというわけだ。
「そうなのか。じゃあ何が食べたいんだ。」
「そうね。セレブと言えば、やっぱりたこ焼きね。」
「たこ焼き?それって、グルメの中でもC級だぞ。」
「C級?Aが最下位で、Cが最高なんでしょ?フォフォフォ。」
 由梨は腰に両手を当てて、仁王立ち。仁王というよりはツインテールのペコちゃん人形だが。
((あのう、そのう、たこ焼きって何どす。))
 絵里華人形がおずおずと質問してきた。
「たこ焼きを知らないの?これだからセレブでない庶民、いや元庶民はダメね。アタシと絵里華は月とスッポンね。アタシの実家は『商店街一のカレー屋さん』だったのよ。絵里華、アタシを圧倒的に羨望しなさいよ。」
((う、うちは庶民・・・。そうだったんどすか。ガクっ。))
 絵里華は肩を落とした。たこ焼きを知らないのが庶民なのか?なんだかそれは違うような気がするがオレは中立姿勢を保った。それに商店街のカレー屋さんって、そもそもセレブ?
「かわいそうな娘。たこ焼きというのはね、『たこ焼き売りの少女』という悲劇童話があるの。それはこんな話。」
『昔々あるところに、貧しいたこ焼き売りの少女がおりました。少女はスーパーセレブを目指して都会にひとりでやってきたのでした。とある財閥のお屋敷に住み込みメイドとして働くことになり、その財閥ではたこ焼きという高級料理を売って、利益を上げているのでした。メイドの仕事は街でたこ焼きを売ること。一日1000個売らないとお屋敷に入れてもらえなくて、外で寝泊まりしないといけないのです。他にもたくさんのメイドがいて、それぞれの持ち場でたこ焼きを売るのがこのビジネスモデル。売上の数パーセントはメイドたちの収入になるのです。一部のメイドからは「会社にボラれている」との批判がありましたが、経営者側はスルー。労働組合もないので、メイドたちに労働争議を起こす権利は認められていなかったのです。のちには『女中(めいど)哀史』という本が残されました。少女は街で一生懸命たこ焼きを売りました。『このたこ焼き、全然売りたくないわ。どうしても買いたいって言うなら売らないこともないけど。』という売り文句で売るのですが、誰も買ってくれません。少女は草木を寝床とする日々が続きました。そんな少女の姿を見て、慈愛の神様が、「ここでたこ焼きを売りなさい。そうすれば必ず売れます。」と言って、一枚の紙をくださったのです。少女は神様の言葉を信じて、紙に書いてある場所に行きました。そこにはこんな看板がありました。『ツンデレ喫茶』。少女は一生懸命セールストークを繰り返しました。「べ、別に買わなくてもいいんだからねっ!」。「「「「「うひょー!買う、買う、買う!」」」」」。たこ焼きは飛ぶように売れました。一日千個なんて楽勝でした。少女はみるみる成績を上げて、トップになりました。少ない取り分でも、数多く売れば自分の収入になる。いつしか、セレブになりました。・・・ある日、少女はは遺体で発見されました。たこ焼きは売れていたのではなく、自分で食べていて、食べ過ぎで、お腹を壊して、死に至ったのでした。』

((な、なんと悲しい物語どすな。ううう。それにセレブへの道の厳しさがよく伝わってきたどす。))
 絵里華は涙交じりに感想を述べた。それを見て、由梨は胸を張った。張り切れなかったが。
「何余計なフレーズを付け加えているのよ。絵里華、このセレブがたこ焼きという高級料理を教えてやるわ。都、ここにたこ焼きセットを用意しなさい。」
「どうしてオレがそんなことをする必要がある。」
 一応抵抗してみせた。
「セレブの命令は絶対なのよ。」
「そうなんですか。はいはい。別にいいけど。」
 別にオレは由梨の奴隷ではない。でも死んでいる者が食べたいというなら、これは一種の供養なのだ。そう理解した。
 この流れでたこ焼きセットを部屋に持ってきたオレ。テーブルにすべてをセットした。一応、由梨に尋ねてみた。
「いうまでもなく、焼くのはオレの役割だな?」
「当然よ。セレブがそんなことをするわけないじゃない。ていうより、都こそ、準備万端じゃない。」
 そう。オレはなぜかメイド服を着ている。女装が趣味なんだから、これくらいはフツーに持っているけど、何か?
 たこ焼きを焼き始めると、じっとそれを見ている絵里華。
「どうした。焼いてみるか?」
((やってもいいんどすか。))
「いいとも。」
 失敗だった。『あひゃー』『いほー』『うぎゅむ』『えばえばぼー』『おべばあ』など、京都のお嬢様?にはおおよそ似つかわしくない擬態語を発しまくって、オレの部屋は小麦粉だらけになってしまった。掃除は誰がするんだ!
「焼くのはオレの役割だ。このメイド服はそのためのものだ。」
 改めてそう宣言してから、たこ焼きを焼き始めた。これくらいはお手の物。次々と生産されていく。出来上がったものに青のり、ソース、マヨネーズなどをかけながら由梨は消費していく。そう思ったが問屋は卸さなかった。
「あ~ん。」
「何だ、それは。」
「決まってるでしょ。はい。あ~ん。」
 当然、たこ焼きはオレの口に運ばれるのではなく、オレが由梨の口に運搬する仕事を担当するという意味だ。やむなく、その職務遂行。こんなことで抵抗しても時間の無駄だということが脊髄反射的に判断された。一方もう一人は。
((おいしい。こんなもの、今まで食べたことがなかったどす。死んでてよかったどす。))
 絵里華人形は感涙。最後のフレーズは若干悲しい。なお、食べているのは本体。
「はい。あ~ん。」
 催促か?そう思ったが、違っていた。何と、オレの目の前に暖かいものがある。
「ほら、都。このセレブが屈辱的な行為をしているんだから、早くありがたく頂きなさい。好きでやってんじゃないんだからねっ!」
「いや、別にひとりで食べるけど。」
「なんという、非国民的な発言なの。ソッコー死刑となるわよ。こんな機会は二度とないんだからねっ!」
「ははあ。わかりました。では心の底から感謝申し上げつつ、口に入れまする。」
 どうでもいいので、言われるままにした。流される雲のごとし。
((あ~んどす。))
 今度はこっちから攻撃。
「どうしたんだ、絵里華。」
((嫁として当然のこと、いやセレブに近づくためどす。勉強させてほしいどす。))
 嫁?何か勘違いしてないか。とりあえず、折角の機会なので、言う通りにした。これが間違いだと気付いたのは後の祭り。これを見ていた由梨が『あ~ん』。絵里華も負けじと『あ~ん』。結果的に『あ~ん地獄』に陥ってしまった。

翌日。
「いてて。腹が痛い。」
腹痛に悩まされたのは言うまでもない。たこ焼きの食べ過ぎだ。