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百代目閻魔は女装する美少女?【第ニ章】

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「そうやね。こんなことで泣いてられへんわ。絵里華にはいつもパワーをもらってるからな。おかあちゃん、頑張るで。」
「そう、その意気やね。パパにはたくさんの奥さんがいてはるけど、ママがいちばんきれいどす。」
「そうやな。絵里華の母親なんやもんな。絵里華はこの世で最高の娘なんやから、おかちゃんが最強の妻ってことや。」
「ねえ、ママ。この家、お金持ちと違うんどす?」
「そうやな。ここは紅葉院グループ言うて、関西では有名な大きな会社なんや。今の社長は2代目。先代が作った会社でな、元々は仏壇メーカーやったんや。それがどんどんおおきうなって、今では関西ではトップの大会社になったんやな。」
「そんなおおきな会社なら、ママもたくさんお金持ってるんじゃないんどす?」
「それがなかなかそうはいかへんのや。パパにはたくさんの奥さんいてはるし、おかあちゃんもなかなかパパにはあえへん。だから、絵里華もめったにパパと遊ばれへんのや。」
「うちはママがいてくれたらそれだけでいいんどす。ママ大好きどす。」
「ありがとな。おかあちゃんが大阪から京都に出てきて、このお屋敷でメイドとして働いていた時に、パパに見染められて絵里華が生まれたんやで。他の兄弟と絵里華は立場が違う。でも負けないで強く生きや。いつかセレブと言われるようになるんやで。」
「『せれぶ』って何どす。」
「簡単に言えばお金持ち言うことや。今の貧しい生活とはオサラバせんとな。」
「ママがそう言わはるならうちは努力して、頑張って、きっと立派なせれぶになるどす。そしてママを楽にしてあげるどす。」
「絵里華。なんていい娘なんや。ううう。」
 母親は娘を両手でしっかり抱きしめて、再び涙した。
 なんともわびしい生活のようである。暗い部屋とふたりの生活がシンクロしているようである。
『トントン』。誰かが部屋をノックしてきた。
「は~い。ここにおるでえ。この時間やと食事やな。」
「そうです。早く移動してください。」
「また苦痛の時間や。労働に勤しむかな。ほな絵里華、一緒に行くで。敵は戦場にありや。」
「そうどすか。うちはこの時間好きどすけど。」
「絵里華は働いたことないから、わからへんねん。おかあちゃんはこの食事の時間がいちばん大変やねん。」
「ママがそういうなら、うちもそう思うようにするどす。」
「そや。ええ娘や。その意気やで。よし、行こか。」
 ふたりは部屋を出た。長い廊下を歩いている。普通の学校のそれよりもはるかに距離がありそうだ。途中何度か折れて、階段もいくつか降りてようやく目的地に到着。
「待ちかねたぞ。早くそこに座れ。」
 鼻髭をハの字型に伸ばした燕尾服の紳士。家の中なのに、蝶ネクタイがしっかりと首を引き締めている。髪は長いが、整えられている。長いテーブルの端に着座している。テーブルクロスは雪のように純白な輝きを放っている。周りにはメイドが数人ついている。眼鏡をかけた30歳位の紺のメイド服の女性がやってきたふたりを席に案内する。
「奥さま、お嬢様はこちらです。」
 椅子を音も立てずに引くメイド。そこにゆっくりと腰掛けるふたり。すぐにワゴンで料理が運ばれてくる。前菜、スープとやってくる。
「はあ。ホンマ、面倒やわ。食べるだけで疲れるわ。鳥にでもなりたいで。」
 母親は料理には興味を示さず、窓の外をモノ欲しげに眺めている。
「ママ、いつか、うちがその願いをかなえてやるどす。」
「なんて、うれしいことを言うんや。おかあちゃん泣かしても何の銭にもならへんで。」
 憎まれ口を叩きながらも優しげな視線を娘に送る母親。
 これって、どこが労働?
誰もいなくなったふたりの部屋に視点を戻す。ドアは両開き。取っ手の部分はライオンのエンブレムが睨みを利かせ、豪奢な黄金色に光っている。ドアを開くと数えきれないほどの宝石をちりばめたシャンデリアが否が応でも目に付く。敢えて明かりをつけていなかったようだ。というのも、これを灯すと太陽を直視するように眩しくて眼を開けることができないのではないかと思われる。ベッドは当然のように天蓋付き。それも相当な大きさで、力士が何人かは寝られるものである。それも何台かが鎮座している。壁にはまるで睡蓮が流れているような絵。ほかにも美術の教科書に掲載されているような有名なものがごく自然にかかっている。部屋のスペースは優に体育館以上の広さを誇示。ふたりはその広さが嫌で隅にいたらしい。これって貧しい生活と言えるのか?