百代目閻魔は女装する美少女?【第ニ章】
休憩時間には予想通り、クラスメイトからの質問の嵐に遭った由梨だったが、美少女カウンターについては、眼鏡の一種で、セレブ専用の特別なモノクルとの説明で通したようだ。それにしても、由梨のいう『セレブ』とはいったい。
オレは未回答の、素朴かつ最も追及すべき再質問をした。
「どうして学校に来たんだ?」
「た、単に来たかっただけよ。」
「そうか。」
会話終了。この日のコミュニケーションはこれにて完了。
ただし、コトは夜になって始まった。由梨=死者というフレーズからは当然か。
下校はオレひとり。家にはリアル女の子のからだで過ごしたが、これはオレの日常であるので、なんら違和感はなく受容された。あとはベッドに桃羅が入ってきた時にどんな展開になるかが気になるところだが、今から考えても仕方ないので、その時を待つしかないという結論に至った。家出するわけにはいかないからな。
部屋に戻り、夜8時になった。再び大林幸子、もとい、閻魔女王が現われた。
「学校へ行け。」
命令はシンプル。理由説明もない。しかし相手は女王、こちらはしがない候補者見習い。その立場からは命令を受けるしかない。サラリーマン社会の縮図である。将来が思いやられる。上司に絶対服従のサラリーマンなんかにはならないぞ。ならば閻魔大王にでもなった方が楽かな。動機が不純になってきた。呪いを解くのが本来の目的だ。
校門に来た。当然鍵がかかっているので、中には入れない。
「このセレブを待たせるなんて、100万年早いわね。」
由梨がいた。黄色の水着姿。左目カウンターが装着されてるのは言うまでもない。
「かわいい。」
思わず口走ってしまった。昨日よりもしっかりと目視してしまった。
「な、何言ってるのよ。恥ずかしいじゃない。あんまり見ないでよ。」
からだをよじっている。軟体動物か。
「それが正装じゃないのか。」
「そんなことないわ。これは戦闘用なのよ。」
たしかに、昨日釣りあげた時は白いワンピースだった。それはそれで十分なる美少女だった。
「今の感想、口に出して言ってよ。」
「はあ?なんのことだ。白いワンピース?」
「その次よ。」
「だった?」
「あと少し。」
「それはそれで?」
「じ、じれったいわね。」
「てことは、十分なる?」
「そこよ。その次の言葉はっ!」
「・・・忘れた。ゴメン。」
「バカ~!!!」
これで心の交流はできたかな。
「どうやって、学校に入るんだ。校門も、校舎入り口も頑強な鍵に閉ざされているぞ。小遣いをネダるオレに対する親の財布状態だぞ。」
「そんな財布はセレブからすると、空気中のチリだわ。」
うん、正解。オレは貧乏であることを痛感させられた。
「こうすれば簡単よ。」
由梨は水着の胸の部分を外した。
「ちょ、ちょっと、心の準備がぁ~!」
いきなりの過激行動に大当惑のオレ。
「鍵よ。夕方にちょろまかしてきたのよ。」
由梨は胸から鍵を取り出したのだ。
「なんだ。がっくり。」
「あら、どうしたのかしら。」
「ちょろまかしてきたって、セレブには似つかわしくない言葉だぞ。」
『がっくり』ということを追及されないように会話運用。
「時と場合によるのよ。『セレブは目的達成のためには治外法権』という慣用句があるわよね。」
そんな慣用句聞いたことないけど。ていうか、『辞書に文字はない』とかいう表現が適切ではないのか。そんなことより、ひとつ由梨に尋ねておかねばならないことが。
「どうして学校に行かなきゃならないんだ、それもこんな時間に。」
「さあ、どうかしらね。アタシもあのババアに言われてきただけだから。」
いきなり、ババアとは!とても清楚なセレブとは思えない。
オレたちは夜の学校に侵入することになった。説明するまでもないが、どこの学校にも『夜の怪奇伝説』が存在する。この春学にもやはりあるらしい。オレはオカルト系には興味がないので、詳しいことは知らないが、『春学七不思議』とか『苦不思議』『十三不思議』とか諸説あって、中国の戦国時代みたく百家争鳴状態にあるらしい。どうでもいいが。
さすがに夜の学校が不気味であることは否定できない。オレは特段怖がりではないが、さすがにいい気持ちではない。すでに、腰のあたりを引っ張る感覚が。言い忘れたが、オレは制服を着ているので、スカート着用。ご多分にもれず、長さは短いので、引っ張られると激ヤバな状態になる。
「誰だ、やめろ。どこの化け物だ!」
由梨だった。子泣きジジイのようにオレの腰にしがみついている。すでに泣いていた。
「だってお化けこわいんだもん。じゃない、こ、こわくなんかないんだからねっ。」
「あなたって、使者・死者じゃなかったんでしょうか?」
由梨はオレのやさしい?言葉を無視して、いや耳に入らなかったのようで、故障寸前の洗濯機のようにブルブル振動している。本当に怖いのか?
「仕方ないな。その位置では歩くのに困るよ。とにかく横に来いよ。手を繋いだら少しは安心できるだろう。」
「しょ、しょうがないわね。どうしても手を繋いでほしいと泣いて頼まれたらセレブとしてはボランティアせざるを得ないわね。」
と言うや否や由梨はすでにオレの右腕にしがみついていた。校舎の玄関から左手に折れて、目的地である美術室に足を向ける。50メートルほど歩くと階段がある。その少し手前までゆるゆると歩いてきた。
『バターン』!突然、大きな音がした。
「うわあ!」「きゃあああ~!」
オレと由梨は同時に悲鳴を上げた。
「いったいなにが起こったんだ?」
「で、出たのよ、オバオバオバ」
「おば?」
「オバサンが。」
辺りを見回すが何もない。存在感ゼロ。無論、オバサンなどどこにも見当たらない。
「はは~ん。これか。」
「な、なによ。わ、わかったの?やっぱりオバサンでしょ?」
「んなわけないだろ。よく見ろ。これは自動ドアだよ。」
教室表示板を見上げる。『保健室出張所』とある。出張所だと?じゃあ、保健室本社はどこだ。それに保健室って自動ドアだっけ?学校にそんな近代兵器が存在するとは恐れ入る。確かに、急患などが来た場合にドアを手で開けなくて済むように設計されているのだろうか。
「あ。ほんとだ。じゃない、そうだと思ってたのよ。あ~こわくなかった。フンだ。」
胸を張る由梨。いや、張ってはいなかった。幻想だった。
「何、余計なこと言ってるのよ。この海のように豊かな胸に向かって・・・。」
言葉が途切れた。
「おい、どうした。」
「ちょっと、腰が。」
「腰がどうした。」
オレは手を貸して、なんとか由梨を立ち上がらせた。しかし、再び落城しそうになる。すると、中腰姿勢のままで、由梨は両手を前に伸ばした。
「なんだ?前に習えか?今は体育の時間じゃないぞ。」
「セレブはそんなに歩くことがないから、足がすぐに疲れるのよ。それに赤い絨毯が敷き詰められたところしか歩かないんだから、こんな硬い廊下はダメなのよ。ほらっ。」
前に突き出した両腕を軽く揺する由梨。老人がやる『前にならえ』状態。
「何がしたいんだ。じゃあないな。何をして欲しいんだ。」
「ほんとバッカねえ。わからないの?セレブに同じことを何度も言わせないでよね。」
オレは未回答の、素朴かつ最も追及すべき再質問をした。
「どうして学校に来たんだ?」
「た、単に来たかっただけよ。」
「そうか。」
会話終了。この日のコミュニケーションはこれにて完了。
ただし、コトは夜になって始まった。由梨=死者というフレーズからは当然か。
下校はオレひとり。家にはリアル女の子のからだで過ごしたが、これはオレの日常であるので、なんら違和感はなく受容された。あとはベッドに桃羅が入ってきた時にどんな展開になるかが気になるところだが、今から考えても仕方ないので、その時を待つしかないという結論に至った。家出するわけにはいかないからな。
部屋に戻り、夜8時になった。再び大林幸子、もとい、閻魔女王が現われた。
「学校へ行け。」
命令はシンプル。理由説明もない。しかし相手は女王、こちらはしがない候補者見習い。その立場からは命令を受けるしかない。サラリーマン社会の縮図である。将来が思いやられる。上司に絶対服従のサラリーマンなんかにはならないぞ。ならば閻魔大王にでもなった方が楽かな。動機が不純になってきた。呪いを解くのが本来の目的だ。
校門に来た。当然鍵がかかっているので、中には入れない。
「このセレブを待たせるなんて、100万年早いわね。」
由梨がいた。黄色の水着姿。左目カウンターが装着されてるのは言うまでもない。
「かわいい。」
思わず口走ってしまった。昨日よりもしっかりと目視してしまった。
「な、何言ってるのよ。恥ずかしいじゃない。あんまり見ないでよ。」
からだをよじっている。軟体動物か。
「それが正装じゃないのか。」
「そんなことないわ。これは戦闘用なのよ。」
たしかに、昨日釣りあげた時は白いワンピースだった。それはそれで十分なる美少女だった。
「今の感想、口に出して言ってよ。」
「はあ?なんのことだ。白いワンピース?」
「その次よ。」
「だった?」
「あと少し。」
「それはそれで?」
「じ、じれったいわね。」
「てことは、十分なる?」
「そこよ。その次の言葉はっ!」
「・・・忘れた。ゴメン。」
「バカ~!!!」
これで心の交流はできたかな。
「どうやって、学校に入るんだ。校門も、校舎入り口も頑強な鍵に閉ざされているぞ。小遣いをネダるオレに対する親の財布状態だぞ。」
「そんな財布はセレブからすると、空気中のチリだわ。」
うん、正解。オレは貧乏であることを痛感させられた。
「こうすれば簡単よ。」
由梨は水着の胸の部分を外した。
「ちょ、ちょっと、心の準備がぁ~!」
いきなりの過激行動に大当惑のオレ。
「鍵よ。夕方にちょろまかしてきたのよ。」
由梨は胸から鍵を取り出したのだ。
「なんだ。がっくり。」
「あら、どうしたのかしら。」
「ちょろまかしてきたって、セレブには似つかわしくない言葉だぞ。」
『がっくり』ということを追及されないように会話運用。
「時と場合によるのよ。『セレブは目的達成のためには治外法権』という慣用句があるわよね。」
そんな慣用句聞いたことないけど。ていうか、『辞書に文字はない』とかいう表現が適切ではないのか。そんなことより、ひとつ由梨に尋ねておかねばならないことが。
「どうして学校に行かなきゃならないんだ、それもこんな時間に。」
「さあ、どうかしらね。アタシもあのババアに言われてきただけだから。」
いきなり、ババアとは!とても清楚なセレブとは思えない。
オレたちは夜の学校に侵入することになった。説明するまでもないが、どこの学校にも『夜の怪奇伝説』が存在する。この春学にもやはりあるらしい。オレはオカルト系には興味がないので、詳しいことは知らないが、『春学七不思議』とか『苦不思議』『十三不思議』とか諸説あって、中国の戦国時代みたく百家争鳴状態にあるらしい。どうでもいいが。
さすがに夜の学校が不気味であることは否定できない。オレは特段怖がりではないが、さすがにいい気持ちではない。すでに、腰のあたりを引っ張る感覚が。言い忘れたが、オレは制服を着ているので、スカート着用。ご多分にもれず、長さは短いので、引っ張られると激ヤバな状態になる。
「誰だ、やめろ。どこの化け物だ!」
由梨だった。子泣きジジイのようにオレの腰にしがみついている。すでに泣いていた。
「だってお化けこわいんだもん。じゃない、こ、こわくなんかないんだからねっ。」
「あなたって、使者・死者じゃなかったんでしょうか?」
由梨はオレのやさしい?言葉を無視して、いや耳に入らなかったのようで、故障寸前の洗濯機のようにブルブル振動している。本当に怖いのか?
「仕方ないな。その位置では歩くのに困るよ。とにかく横に来いよ。手を繋いだら少しは安心できるだろう。」
「しょ、しょうがないわね。どうしても手を繋いでほしいと泣いて頼まれたらセレブとしてはボランティアせざるを得ないわね。」
と言うや否や由梨はすでにオレの右腕にしがみついていた。校舎の玄関から左手に折れて、目的地である美術室に足を向ける。50メートルほど歩くと階段がある。その少し手前までゆるゆると歩いてきた。
『バターン』!突然、大きな音がした。
「うわあ!」「きゃあああ~!」
オレと由梨は同時に悲鳴を上げた。
「いったいなにが起こったんだ?」
「で、出たのよ、オバオバオバ」
「おば?」
「オバサンが。」
辺りを見回すが何もない。存在感ゼロ。無論、オバサンなどどこにも見当たらない。
「はは~ん。これか。」
「な、なによ。わ、わかったの?やっぱりオバサンでしょ?」
「んなわけないだろ。よく見ろ。これは自動ドアだよ。」
教室表示板を見上げる。『保健室出張所』とある。出張所だと?じゃあ、保健室本社はどこだ。それに保健室って自動ドアだっけ?学校にそんな近代兵器が存在するとは恐れ入る。確かに、急患などが来た場合にドアを手で開けなくて済むように設計されているのだろうか。
「あ。ほんとだ。じゃない、そうだと思ってたのよ。あ~こわくなかった。フンだ。」
胸を張る由梨。いや、張ってはいなかった。幻想だった。
「何、余計なこと言ってるのよ。この海のように豊かな胸に向かって・・・。」
言葉が途切れた。
「おい、どうした。」
「ちょっと、腰が。」
「腰がどうした。」
オレは手を貸して、なんとか由梨を立ち上がらせた。しかし、再び落城しそうになる。すると、中腰姿勢のままで、由梨は両手を前に伸ばした。
「なんだ?前に習えか?今は体育の時間じゃないぞ。」
「セレブはそんなに歩くことがないから、足がすぐに疲れるのよ。それに赤い絨毯が敷き詰められたところしか歩かないんだから、こんな硬い廊下はダメなのよ。ほらっ。」
前に突き出した両腕を軽く揺する由梨。老人がやる『前にならえ』状態。
「何がしたいんだ。じゃあないな。何をして欲しいんだ。」
「ほんとバッカねえ。わからないの?セレブに同じことを何度も言わせないでよね。」
作品名:百代目閻魔は女装する美少女?【第ニ章】 作家名:木mori