本当にあったゾッとする話9 -あなたは何故そこに-
本題に入ろう。
私は会社に通勤する際、ある私鉄を使用して都心にあるターミナル駅まで行き、そこで別の私鉄に乗り換える。仮に、最初に乗る私鉄をA鉄道とし、乗り換える私鉄をB電鉄としておくことにする。
会社の最寄り駅の改札が電車の進行方向に対して駅の一番後ろにあるため、B電鉄の電車に乗るときは、いつも最後尾の車両に乗るようにしていた。
出勤時には、毎朝同じ時間の同じ車両の同じドアから乗るため、車両内はおおよそ見慣れた人が乗っている。一時期その中に、知的障害があると思われる男性をよく見かけた。
20歳台にも30歳台にも、あるいは40歳台にも見える年齢不詳で、坊主刈りの頭にぽっちゃりした体形で、一見して知的障害があると分かるが、別に暴れたり奇声を発したりすることもなく、おとなしく座席に座っているため、私も含めて特に誰も気にすることはなかった。
ある日のことだ。
私は仕事を終えて会社を退社し、いつものようにB電鉄からA鉄道に乗り替えて自宅の最寄り駅で降車した。そのまま改札を通過しようとしたとき、おかしな光景を目にした。おそらく駅に入場しようとしていたのだと思うが、ある人が自動改札の磁気式カード(当時は磁気式の定期券やパスネットというプリペイド式の磁気カードがあった)を挿入するスロットに、千円札を差し込もうとしていた。当然、磁気式カードを挿入するためのスロットなので、千円札が入るはずがない。それでもその人は、一所懸命千円札をなんとかスロットに押し込もうとしていた。
私は、おかしな人がいるものだと思い、ぽっちゃり体形のその人の顔を本人にわからないようにしながら覗き込んだ。ここまで読み進めた方はもう予想されているのではないかと思うが、それは、よく朝のB電鉄の車両で見かける、知的障害のある人だった。
毎朝、別の電車の車両で見かける人が、夜、自宅最寄り駅にいるというのが、そのときは何とも薄気味悪く、気持ちが悪かった。
A鉄道の私の自宅の最寄り駅は、ターミナル駅から急行で40分以上かかる郊外にある。いつもB電鉄で見かけるあの人が、何故こんな駅にいたのだろう。自宅が近所だったのだろうか。だとしたら、自宅近辺や駅周辺でも見かけることがあるはずだが、今まで一度もその人を見かけることなど無かった。単なる偶然だろうと思ったが、それでも気持ちが悪いことに変わりは無かった。
そして、その日以降、いつもの電車に乗っても、その人を見かけることは二度と無かった。
- 完 -
作品名:本当にあったゾッとする話9 -あなたは何故そこに- 作家名:sirius2014