魔導士ルーファス(2)
それを見て唖然と言葉を失ったカーシャだったが、すぐにカッと頭に血が昇った。
「それかッ! ふざけるな、どんな場所に試験管を入れておるのか! いつからそんなキャラになったのだ!」
「たまにはいいでしょ(ふっ)」
無表情のまま口元だけで笑った。なんかすごいムカつく笑い方だ。
結局、ローゼンクロイツの性別はわかないし、彼はべつにどっちの性別だろうが構わないだろうが、カーシャとルーファスは大いに困る。
ローゼンクロイツでは話にならんと考え、ビビに矛先が戻る。
「おまえが説明しろ、なにが起きたのか順序よく、サルでもわかるように!(あ、バナナ食べたい。帰りにでも買って帰るか、ふふ)」
「ええっと、ローゼンクロイツがおもしろい液体をつくってくれて、そこにあたしの魔力を注いだらいきなりドーン、バーン、キラキラってなって……でどうなったの?」
とルーファスに顔が向けられる。
「私が調合していた中和剤とそれが魔導反応を起こして、気づいたらこの有様で……(どうしよう、この姿じゃ人前に出られないよ)」
「わかった、とりあえず調合した物を全部並べろ」
カーシャの指示でテーブルに薬品などが1つずつ並べられる。
腕組みをして仁王立ちをしたカーシャが唸る。
「う〜ん、わからん」
「わかんないの?」
ぽそりと言ったビビをカーシャが睨む。
「おまえのせいだ。不確定要素のマナの成分がわからなければ、中和剤なり解毒剤をつくることはできない」
が〜ん、ルーファスショック!
「やだよぉ、ずっと女の子のままなんて」
「妾だってマッチョなんて死んだほうがマシだ(死なんがな、ふふ)」
二人にとっては死活問題だが、ローゼンクロイツは相変わらず黙々と、ビビは楽しそうにしている。
「いいじゃん、おもしろいし」
「「よくない!」」
二人の声が揃った。
ビビはお構いなしだ。
「せっかく女の子になったんだし、アタシと同じ髪型にしようよ。ねっ、ルーちゃん♪」
「えっ(すっごくイヤなんですけど)」
凍りつくルーファスに詰め寄ったビビは、予備の髪留めのゴムを両手でビヨーンと伸ばし、ニコニコしながらルーファヅに見せつけた。
逃げ腰のルーファスは1歩、2歩、と後ろに下がる。
攻めるビビは3歩、4歩と間合いを詰める。歩くたびにニコニコが、ニヤニヤに変化している。
「逃がさないんだからっ」
ビビが飛びかかった!
捕まるルーファス。後ろで雑に結わいていた長髪をほどかれ、髪を二等分されて素早く結わかれた。
ぴょんぴょんっとルーファスの頭で2本の尻尾が揺れる。
「うんっ、カワイい♪」
目をキラキラさせて自分の作品を見つめるビビ。女子のカワイイは信用ならない。
「あとは女の子の服を着ればばっちり!」
「勘弁してよぉ」
困った顔をするルーファスを見つめていたビビの表情が曇っていく。
「でも……アタシの服じゃ入らない(とくに胸が)」
貧乳でも胸は胸!
だいじょうぶ、ローゼンクロイツだって胸ないし!
女子の服を着てはいないが、元々ルーファスがいつも着ている魔導衣は、シルエット的には男女兼用なデザインで、裾も二股に分れていないスカートっぽい感じなので、この服でも十分に女子で通用するだろう。
ただ、もうひとりの被害者は変態が女装しているようにしか見えない。
「おまえら遊んでおらんで、解決方法を考えんか!」
「私に思い付くと思う?」
「あたしぜんぜんわかんないし」
二人の顔を見てカーシャは溜息を吐いた。
「…………(だろうな、役立たずどもめ)」
はじめから期待していない。残るひとりの空色ドレスは、その類い希なる魔導センスがあるが、性格的にまったく期待できない。
カーシャは手のひらの上にポンとグーを落として叩いた。
「そうだ、パラケルススがいるではないか。おいルーファス、ちょっとパラケルススを探して来い」
「えっ、なんでも私が?」
「行けったら行け」
「やだよ、こんな姿で行けるわけないじゃないか」
「だれのせいで妾がこんな姿になったと思っておるのだ?」
「(絶対に僕のせいではないと思うんだけど)」
思っても口には出さなかった。
ビビはルーファスにじとーっと見つめられた。
「ひっど〜い、あたしのせいだってゆーの?」
「そうは言ってないよ」
そう目は言っている。
ぷくぅっと頬を膨らませたビビは、
「仕方ないなぁ、あたしもついってってあげるよ」
「(いやいやいやいや、ついてくとかじゃなくて)ビビが行って来てよ」
「え〜っ、めんどくさぁ〜い。ケーキ1個で手ぇ打ってあげてもいいよん」
「(……なにも悪いことしてないのに)ひとりで行ってくる(なんだよ、みんなひどいよ)」
そそくさと教室を出て行こうとしたルーファスにカーシャが声をかける。
「ついでにイチゴジュースを買ってこい」
「は?」
唖然としながらルーファスは振り返った。
その瞬間、カーシャが第一投振りかぶった。
ビューン!
「ぐえっ」
潰れたカエルのように呻いたルーファスのおでこに小銭がヒット!
デッドボールだ。
おでこを抑えて言いたがっていると、さらに別方向からビューン!
「いてっ!」
ルーファスの側頭部に小銭がヒット!
投げられた方向を見るとビビが笑っていた。
「あたしもイチゴジュース」
「なんでビビまで投げるのさ」
「だって楽しそうだったんだもん」
ビューン!
また小銭が飛んできた。
今度は素早くルーファスは避けようとしたのだが、なんと小銭が分裂した!
4枚の小銭がトルネード回転をしながら迫ってくる。
魔球だ!
「ぶえっ!」
ルーファスの顔面にヒットした小銭が、チャリン、チャリン、チャリン、チャリンと音を鳴らしながら、床に次々と散らばった。
ビビが目を丸くして驚く。
「お金を増やす錬金術!?」
ボソッとカーシャが吐く。
「4枚投げただけだろう」
魔球じゃねーし!
ルーファスは小銭を拾いながら顔を上げ、困った顔をしてローゼンクロイツを見つめた。
「どうしてろーぜんくろいつまで投げるのさ?」
「そこに意味なんてあると思うのかい?(ふっ)」
ほくそ笑みやがった!
嫌がらせだ、絶対に嫌がらせだ!
「で、ローゼンクロイツはなに飲むの?」
ルーファスが尋ねると、
「いらないよ、そんなもの(ふあふあ)」
すっげー嫌がらせ!
思わずカチンと来たルーファスは小銭を投げ返した。
が、4枚とも目にも止まらぬ早さでローゼンクロイツはキャッチした。
「お金は大切にしないといけないよ、ルーファス(ふあふあ)
おまえが先に投げたんだろう。
嫌がらせを受けて時間を潰してしまっていると、カーシャは痺れを切らせて怒り出した。
「さっさと飲み物買って来んか!(のどが渇いて堪らん)」
なぜのどがそんなにも渇くかって?
カーシャはここにあった材料でわたあめっぽい食べ物をつくり、ビビと、ビビといっしょに食べていた。
それを見たルーファスは声をあらげる。
「ビビまで!?」
声に反応してビビがこっちを向いた。
「ん、ジュースまだ買ってきてないの?」
「…………(買ってきてないよ)」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)