魔導士ルーファス(2)
鉄扇公主はラブハリケーン3
ルーファスは真剣な顔をした。
「じつは今までみんなに黙ってた秘密があるんだ……じつは、あたし女の子なの!」
が〜ん。
セツショック!
「ルーファス様がおなごだったんなんて!」
ローザショック!
「どうして今までお姉ちゃんに教えてくれなかったの!」
カーシャはルーファスの後ろに回り、パンツごとズボンを一気に下ろした!
「これのどこが女だ!」
パオ〜ン♪
ポッとセツは顔を赤らめた。
「まあ可愛らしい」
続けてローザは聖母の笑みを浮かべた。
「幼いころとぜんぜん変わらないのね」
なにがデスカ?
慌ててルーファスはズボンをはき直した。
「な、なにするんだよ!」
下半身大露出で作戦失敗。てゆか、信じかけたローザっていったい。
ルーファスに残された婚約解除法はあと2つ。
構えるルーファス。
「(別の女の子とキスなんて……)」
セツとのキスが脳裏に過ぎってしまったルーファスは、あの柔らかな唇の感触を思い出して――ブフォッ!
鼻血が出た。
「(キスなんてできるわけないじゃないか。そうなるとセツに勝たなきゃいけないんだけど、女の子に手を上げるなんて)ところでなんで強い者と結婚しちゃいけないの、普通逆なんじゃ?」
「元々は男子の代に作られた掟だからです。強い嫁を貰うと、尻に敷かれるということらしいですわ」
と、セツが答えてハッとした。
「まさかわたくしを倒すおつもりじゃ!?」
「そんなつもりじゃないから安心して!」
ルーファスは否定したが、その言葉はセツの耳には華麗なるスルー。
「これが愛の試練なのですね。ルーファス様がその気なら、わたくしも本気を出させていただきます」
鉄扇を構えたセツはヤル気満々。
その姿を見てルーファスは逃げ腰。
「(ヤバイ、あの殺気……殺される)」
「ルーファス様、そちらから来ないのなら、わたくしから――旋風!」
軽くひと扇ぎされた鉄扇からつむじ風が放たれた。
ルーファスが風に飛ばされた!
「うわぁっ!」
うまい具合に地面に着地したルーファスは、飛ばされた弾みを利用してそのまま逃走!
走り去るルーファスの背中姿。
…………。
しばらくしてセツはハッとした。
「逃げられ……逃げられたやないかド阿呆!」
ゴリラのような顔をしてセツが怒鳴り散らした。
そのあまりの変わりようと気迫に唖然とするカーシャとローザ。
だがすぐにカーシャは納得した。
「(美人のクセにルーファスを追い回すくらいだ。このくらいの欠点はあって当然か)」
自分に向けられている奇異な視線に気づいて、セツはすぐさま顔を元に戻して微笑んだ。
「ど、どうかなさいました?(み、見られた。見られてはあかんものを見られてしもうた)」
ササッとそっぽを向くカーシャ。
空気を読んだローザも本に夢中になった。
「まあ、こんな立派なモノが……きゃっ♪」
だからどんな本読んでんだよ。
し〜ん。
3人無言。
変な空気が流れはじめた。
堰を切ったように慌ててローザが口を開く。
「そうだ夕飯の買い物に行かなきゃ!」
カーシャも続いた。
「そうだペットにエサをやらんと」
そして、便乗してセツも。
「そうだルーファス様を追わないと」
そして3人は頭を下げて別々の方向に進みはじめたのだった。
だいぶセツを巻くことに成功したルーファスは、若者が多く集まるオサレストリート、通称にゃんこ通りに来ていた。
クラウス魔導学院は週休1日だが、多くの企業や学校は週休2日のところも多く、ハリュクの今日は休みの若者も多い。
オサレファッソンのブテックを立ち並ぶ通りは、若者でひしめき合っている。ルーファスは人混みに紛れる作戦だ。
しかし、そんなルーファスの浅はかな知恵が悲劇をもたらすことになるのだった。
片膝をついてバズーカを肩に構えたセツ。
「科学の力でルーファス様を捜して見せますわ!」
発射!
科学の力がどーとかこーとか以前に、どー見ても無差別攻撃です。
必死にミサイルを避ける若者たち。ひとの群れが左右に割れ、その先にルーファスが見えた。
ド〜ン!
そして、結果は大爆発。
爆発に巻き込まれたルーファスは、ボロボロになりながら立ち上がった。
「うう……死ぬかと思った」
とか弱ってる間にセツは目の前まで迫っていた。
「ルーファス様、召し上がれトリモチ!」
バズーカからミサイルではなく、今度はトリモチが発射された。
避ける避ける避ける!
運動神経のないルーファスだが、避けるのは得意だったりする。ドッジボールで最後まで残っちゃって、ボールも取れずに困るタイプだ。
ルーファスが避ければ避けるほど、周りの若者たちがベットベトのトリモチに捕らえられていく。
「うわっ、なんだこれ!」
「きゃっん、助けて!」
「取れないぞ!」
君たちの犠牲は忘れない!
逃げるルーファス。
逃がさないセツ。
「メイドインワコクは甘くありませんわよ!」
巨大な魔人の手がルーファスに襲い掛かる。違う、それは機械の手だ。セツの左腕に取り付けられたメカニカルアームが意のままに動く。
避けられたルーファスの替わりにポストがメカニカルアームが握られた!
ぐちゃ。
あ、ポストが潰れた。
顔面蒼白になるルーファス。
「あんなのに握られたら死ぬし!」
一瞬で死ねればいいが、下手に死ねないと、関節が逆方向に曲がったり、内臓が××で××な状態でしばらく死ねない可能性もある。まさに生き地獄だ。
セツが鉄扇を扇ぐ。
「逆風!」
放たれた風を受けた者が、進行方向とは逆方向に飛ばされてしまうという必殺技。
ひとたびルーファスが逆風を受ければ、あっという間にセツの前に飛ばされてしまうが。
が!
風を受けた若者たちが大津波になってセツに襲い掛かる。
「きゃあっ……って、おんどりゃに用はないんじゃアホ!」
ゴリラの形相でバズーカ発射!
晴れときどき人。
驚いたルーファスは振り返ろうとした。瞬間に、セツは顔を元に戻す早業だ。ルーファスはセツの変貌に気づいていない。
セツはもう目と鼻の先。
「ルーファス様!」
「うわっ、お願いだからあきらめて!」
襲い来るメカニカルアーム!
紙一重でかわしたルーファス!
だが、メカニカルアームから網が発射された。
ルーファスに避ける余力はない。
「にゃあ」
突如、セツの目の前に現れたネコ。
ゴクンとつばを飲み込み固まるセツ。
「にゃあ」
「きゃぁぁぁ〜〜〜っ!」
血相を変えてセツは逃げ出してしまった。
尻餅をつくルーファス。
「ふぅ……助かったの?」
通称にゃんこ通りのゆえんは、野良猫が多いことからその名がついたと云われている。
「はい、お待ちどおさま」
クレープ屋台の兄ちゃんから、ストロベリーチョコ生クリームクレープを受け取り、ビビは笑顔で歩き出した。
「(仕送りがあると無駄遣いが多くなっちゃう。けど、いっか♪)」
あ〜ん、と大きな口を開けてクレープを頬張ろうとしたとき。
「どいてどいて、ビビ!?」
飛び込んでたルーファス!
グチョ。
「ああっ!」
ビビが叫んだ。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)