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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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「みなさんも知っての通り、召喚術というのは極めて難しい術です。その難しさを緩和するために多くの下準備が必用となるわけです。場所、日時、道具、召喚するものと自分との相性、ほかにもいろいろと要素があります。この学院では3年生から召喚術の実践基礎を学び、今年からみなさんは中級の実践となります。そして5年生で上級、6年生で応用となります。すべての課程を終えたとしても、外に出て召喚が容易に使えるとは限りません。なぜならここで行う召喚はじつに恵まれた環境だからです」
 ここでまずは魔法陣を書き終えた。大きさは30人ほどが中に入れるほど。
 さらにラ・モットはもう1つ魔法陣を描きはじめた。
「本日は2つの召喚を同時に行います。なにかが起きるかはそのときのお楽しみです」
 2つ目の魔法陣はすぐに書き終えた。大きさは1人がちょうど入れるほど。
 ラ・モットはクラウスに顔を向けて口を開く。
「ではクラウスくん、こちらの小さな魔法陣の中に入ってください。危険ですからなにが起きてもじっとしているように」
「はいわかりました」
 言われたとおりクラウスは魔法陣の中に入った。
 通常、召喚は呼び出すのであって、魔法陣に入ることは召喚とは違う術を使うときに多い。
 ラ・モットは腕時計を見た。
「あと1分。召喚は相手の都合も考えなくはなりませんから」
 大きな魔法陣が独りでに輝きはじめた。
 ラ・モットは微笑む。
「近代における召喚はもっぱら移動手段として使われることが多くなりました。それでも高度で不安定なために一般に普及するほど実用的ではありませんが……5、4、3、2、1」
 大きな魔法陣が光の柱を放つと同時に、ラ・モットはクラウスの入った魔法陣に魔力を注ぎ込む。
「出でよ我が忠実なる仲魔となるモノよ!」
 ラ・モットがそう叫んだときには、すでに多くの者たちがこの場に呼ばれていた。
 大きな魔法陣の上に立つざっと30人ほどの魔導士。ロッドなどを構え、戦闘態勢を整えていた。その標的は生徒たち。
 クラウスは思わず魔法陣から出ようとした。
 しかし、ラ・モットの大声がそれを制止させる。
「動くなクラウス!」
「ッ!?」
 瞬時にクラウスは動きを止めた。
 ラ・モットの視線はクラウスの背中を見ていた。
「そう、そのまま動かないで。ほかの生徒さんたちも決して動かないように。クラウス、あなたの背中を見てご覧なさい」
「なに!?」
 クラウスは肩越しに自分の背中を覗き込んだ。
「!?」
 眼を剥いたクラウス。
 植物か、それとも動物か、形は蜘蛛に似ている。なぞの物体がクラウスの背中に張り付き、不気味な鼓動が伝わってくる。
「僕になにをつけた!」
 明らかに良いものとは思えない。
 ラ・モットは嬉しそうに微笑んだ。
「簡単に言ってしまえば爆弾よ。わたくしに逆らえば爆発、無理に外そうとしても爆発、あなたはわたくしの言いなりになるほかない。たとえあなたが自分の命など惜しくないと言ったとしても、そちらにいる生徒さんも人質であることはお忘れなく。そして生徒さんたちも、クラウスが人質であること、そしてご自分たちも勝手な真似をすれば殺されるということをお忘れなく」
 完全に制圧されたのだ。
 クラウスが叫ぶ。
「なにが目的だ!」
「第一の目的はあなた自身よ」
「僕を使ってなにをする気だ?」
「それはまだお楽しみよ」
「……っ(僕としたことが気を抜いていた。学院内でこんな事態が起こるとは、しかも召喚実習室がこんな形で使われるなんて)」
 学院の関係者は多く、侵入してさえしまえば疑われることはまず少ない。その侵入前のリスクを考えると、大人数で侵入することは難しい。そこで使われたのがこの召喚実習室だった。大人数を外部から移送させるのに、こんなうってつけの場所はない。
 ただし、外部から直接ここに〈ゲート〉を開くことはできない。魔導学院側もその処置は当然している。ただし、内部からも〈ゲート〉をつくってやれば話は別だ。
「遅いわ」
 と、つぶやいたラ・モット。まだなにか起ころうとしているのか?
 ラ・モットは仲間の魔導士に顔を向けた。
「なにか連絡は?」
「まだありません、ルビーローズ様」
 ラ・モットではなくルビーローズと呼ばれた。ラ・モットは偽名か、だとしてもルビーローズも本名とは限らない。
 人質にされたクラスメート、爆弾を取り付けられたクラウス、敵の目的はクラウスを使ってなにかをすること。そして、さらに何かが起こることをルビーローズは待っている。
 クラウスは情報収集に努めようとした。
「政治的目的か? それとも身代金目当てか? たかが身代金なら僕でなくてもいいだろう。いったいなにが目的なんだ?」
 ルビーローズは妖しく微笑んだ。
「ここでわたくしがそれを言うことは、あなたも困ることになるわよ?」
「どういうことだ?」
「とある機密に関わること。次の作戦段階が成功したときに、おのずと見えてくるかもしれませんわね」
 そして数秒、それは起きた。
 学院全体に鳴り響く緊急警報。さらにオペレーションシステムによる自動音声が流れた。
《緊急防御コードが発令されました。学院全体を結界で覆い、ただちにすべての扉をロックします。危ないですので扉などに近付かないようにお願いします》
 この召喚実習室だけではない。学院全体が完全封鎖されたのだ。
 クラウスはつばを呑んだ。
「なぜ……このコードの存在を……莫迦な、外部に漏れるはずが……」
 王都全体を守る結界ではなく、たかが学校施設になぜこのようなシステムがあるのか?
 国王であるクラウスがそれを知らないはずがない。この学院はクラウスの名が冠された学院だ。
 ルビーローズはクラウスに問いかける。
「比較的平和なこの時代、そしてこの地域、しかしいつ戦争が起こるとも限らない。世界三大魔導国家と呼ばれるこの国は、表向きは産業で栄えているけれど、軍事面においても抜かりはなく、いざというときの本拠地はこの場所、そうでしょうクラウス?」
「それは違うな。学院は国外の者がほとんだ、それを守らなくてはいけない。ここは戦うための施設ではなく、守るための施設だ」
「物は言いようね。攻撃は最大の防御とは良く言うわ。この学院設立の真の目的は戦える魔導士をひとりでも多く育て、国でそれを雇い入れること」
「妄想もいいところだ。設立目的は魔導による豊かな暮らしの実現。それに貢献することに尽きる」
「本当かしら?」
 ルビーローズはなにを知っている?
 そして、クラウスはなにかを隠しているのか?
「さあ行きましょうクラウス」
 ルビーローズは出口へ手を向けた。
「僕をどこに連れて行くつもりだ?」
「すぐにわかるわ。今この状況でロックを解除しながら部屋を行き来できるのはあなただけ。生徒さんが人質になっていることは、何でも言っているからわかっているでしょう?」
 クラウスは従うしかなかった。