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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 こんな感じでカーシャのペースに飲まれている時間はない。
 だが、ルーファスの前に立ちはだかる新たな刺客!
「かわいい弟よー! おまえも飲め飲め〜っ♪」
 上機嫌のリファリスが並々に注がれた大ジョッキを両手に持って駆け寄ってきた。
 冷えたビールジョッキがルーファスの頬にグイグイ押しつけられる。しかも両サイドから。
 まるでタコみたいな口をしたルーファスが、
「リファリス姉さん、やめてよぉ〜(なんだよ、なにがしたいんだよこの人)」
 べつになにがしたいってわけじゃなくて、とくに理由はないと思われる。
「わっちの酒が飲めないってのかい? オラオラ、た〜んのお飲み!」
 いつにリファリスは強硬手段に出た。
 必殺ビールかけ!
 どぼどぼ〜っとビールがルーファスの頭からかけられた。本当にありえない。
 ルーファスの長い髪は見事なまでの吸水力。ビール臭いったらありゃしないし、目は開けられないくらい染みる。
「痛いっいったーっ、目が目が開かない!」
 手探りでルーファスは辺りのようすを探った。
 ふにゅ。
 ルーファスの手がなにか柔らかいものに触れた。
 いったいこれはなんだろう?
 確かめるために、ふにゅふにゅっともう一度触ってみた。
 流動性があって柔らかく、そうかと思えばほどよい弾力性もあって、人肌のようにほんのり温かい。
「ルーファス!」
 ルーファスのすぐ近くでカーシャの怒号がした。
 ようやく視界が開けたルーファスの目の前にしたのはカーシャ。そしてもちろん触っていたのはスイカップ。
「あががっ、ごめんなさーい!」
 ルーファスは謝ったが、もう遅いだろう。
「妾の胸を揉みしだくとは何事だーッ!」
 あんたさっき触りたいなら正々堂々と来いって言ってたじゃないか。
 目と胸の先の距離でカーシャが魔法を放つ。
「びゅーん!」
 なんじゃその呪文!
 あきらかにギャグとしか思えない呪文だったが、まさかの再び発動。
 カーシャの手から放たれたのは、ビールの噴射だった。
 そこら中にあるビールを手元に集め、一気に放出したのだ。
 まるで消防車の放水のようにところ構わずビールがまき散らされる。
 最初の一撃をモロ喰らったルーファスは水圧で男たちが飲むテーブルに突っ込んでしまった。
 テーブルを滅茶苦茶にされた男どもとルーファスの目が合う。
「(殺される)」
 ルーファスは確信した。
 ボコッ、ドゴッ、ぐへっ!
 カエルが潰れたような呻き声があがった。
 頭を抱えてしゃがみ込んでいたルーファスが恐る恐る顔をあげると、そこにはコテンパンにのめされた男どもの姿が。
「だいじょぶかい?」
 ルーファスに声をかけて手を差し伸べたのはリファリスだった。どうやらリファリスに助けられたらしい。
 が、リファリスの手をつかんで立ち上がろうとしたルーファスが、なんとそのままリファリスに腕を引かれて投げ飛ばされたのだ。
「行って来ーい、ルーファス!」
「ぬーっ!!(なんでこーなるのーっ!)」
 叫びながらルーファスは次のテーブルに突っ込んだ。
 そして、男どもがルーファスを睨む。こうしてさっきと同じパターンが繰り広げられることになった。
 一方カーシャはビール放水を続けていた。
「ふふふふふふふ、ふふふふふふ、飲め飲めーっ、酒は飲んでも呑まれるな!」
 あんた一番呑まれてますが?
 いつの間にかあたりはビールかけ&乱闘合戦になっていた。
 騒ぎは大きくなる一方で、どっかのだれかがロケット花火を飛ばしたり、爆竹まで鳴らしはじめた。
 完全に収集がつかない状況だ。
 ルーファスは高く積み上げられた人の山から、命からがら這って出てきた。
「死ぬ……圧迫死するとこだった……」
 顔からは血の気が引いてしまっている。
 アンダル広場全体にサイレンの音が鳴り響いた。
 聖リューイ大聖堂を警備していた治安官たちが広場に押し寄せ、さらに広場の周りからも続々と治安官たちが集まってきた。
 騒いでいた人の中には果敢にも治安官にケンカを売る者もいたが、ほとんどは捕まる前に一目散に逃げ出した。
 まだ石床でへばっているルーファスの腕を何者かがグイッと引っ張り上げた。
「逃げるぞルーファス!」
 カーシャだった。
 我に返ったのかと思いきや、挙動が酔っている。
 ルーファスの腕をつかんでいるカーシャは、そのまま上空に飛び上がろうとした。
「レビテーション!」
 二人の空が浮き上がる。
 魔導具などの補助を使わずに空を飛ぶ魔法は、熟練者かセンスのある者しか使いこなせない。魔法そのものの発動は容易なのだが、自分を取り巻くマナを安定させるのが至難の業で、さらには身体的なバランス感覚も優れていなければならない。人を乗せて飛ぼうなんて無謀で、酔って飛ぶなんて死を覚悟しているとしか思えない行為だったりする。
「うぎゃーっ!」
 ルーファスの叫び声が夜空に木霊した。
 ジェットコースターなんて目じゃない蛇行運転。
 夕食を口にしたら絶対にリターンしていた。
「カーシャ下ろして!」
「ふふふふ、風が気持ちいいな。体がベタつく……シャワー浴びたい」
 いきなりの急降下。
 眼下に迫るシーマス運河。
 ジャバーン!!
 クジラの潮吹きみたいな水しぶきをあげて二人は河に沈んだ。
 酔って水に入るなんて自殺行為だ。
 さらに服が水を吸い込んで泳げるハズがない。
「ぶほっ……もげ!」
 水面でアップアップしながらルーファスは死相を浮かべた。たぶん下半身はすでにあの世に浸かってしまっている。
 体力がもたない。
 ついにルーファスは力尽き、手を最後に残して河に沈んだ。
「ルーファス!」
 何者かの声が響いた。
 ルーファスの手をつかんだ熱い手。
 小型船舶の上にルーファスの体が引き上げられた。
「大丈夫かルーファス!」
「ううっ……クラ……ウス?」
 目を開けたルーファスを覗き込んでいたのはクラウスだった。
「よかった、生きていたか」
 安堵のため息をクラウスは漏らした。
 体を起こしたルーファスはあたりを見回した。
「カーシャは!?」
「それが……二人が共に河に落ちるところまでは見たのだが……」
 重い表情を浮かべるクラウス。
 だが、闇の中から女の声がした。
「妾ならここにいるぞ」
 いつの間にか甲板に立っていたカーシャだった。全身ずぶ濡れだが、肌の赤みを消えて
表情もいつもどおりだ。どうやら酔いが抜けたらしい。
 ルーファスとクラウスはほっと胸をなで下ろした。
 しかし、ほっとしているヒマなんてなかった。
 クラウスが懐からモレチロンの角を取り出して見せた。
「カーシャ先生にお願いがあります。この角を角笛に加工してもらいたいのですが?」
「うむ、妾に頼んでくると思っていたのですでに準備は整えてある」
 あんた飲んだくれただけじゃないんだな!
 ちょっとは見直したぞカーシャさん!
 が、次の言葉は、
「いくら出す?」
 金の話かい!
 カーシャが慈善でやってくれるわけがない。
 クラウスは考え込んでしまった。
「……(このような物は相場があってないような物)いかほど払えば?」
「そうだな、さっきの騒ぎで出た被害額でどうだ?」