魔導士ルーファス(1)
「……やはり貴女が起こした騒ぎだったのですね」
「出すのか出さないのか?」
「(仕方がない)出しましょう。今すぐお支払いはできませんが、直接こちらが被害額を立て替えると言うことでどうですか?」
「うむ、よかろう。ではこれが完成した角笛だ」
おもむろにカーシャは胸の谷間から角笛を取り出した。
それを見た二人は目を丸くした。
「「え?」」
なにが起きたのか理解できない。
採ってきた角はたしかにクラウスが持っている。
なのにカーシャは完成品を持っているのだ。
「こんなこともあろうかと、出来た物をすでに用意しておいたのだ」
3分クッキングかっ!
てゆか、ヴァッファートの元へ行き、さらに苦労して角を採ったのが、すべて取り越し苦労に終わった瞬間だった。
唖然とするクラウスからカーシャが角を奪い取った。
「これは妾が預かって置こう。そして、これを受け取るのだ」
そして、角笛を渡した。
ここでカーシャがボソッと。
「あと5分もないぞ」
それは日が開けるまでの時間だった。
焦るクラウス。
そこへエルザが駆けつけた。
エルザの顔は見るからに怒っていた。
「クラウス様、どこをほっつき歩いていたのですか!! しかも大事な〈誓いの角笛〉まで持ち出して!」
壊れたことはバレていないらしい。
「その……すまんエルザ」
「神器をお持ちしました、すぐに装備して鐘楼までお急ぎください!」
初代国王ラウルがヴァッファートから贈られた三種の神器。
1つはすでに装着している〈ウラグライトの指環〉。
エルザがクラウスに手渡したのは〈竪琴の杖〉。
そして、空を飛べる〈白輝のマント〉。
「これがあれば間に合う!」
歓喜にクラウスは打ち震えた。
〈誓いの角笛〉と三種の神器を装備したクラウスが空に舞い上がった。
「行ってくる!」
瞬く間にクラウスの姿が消えた。
残された3人は空を見守る。
3分を切った。
もうクラウスは鐘楼に辿り着いただろうか?
1分を切った。
本当に間に合ってくれただろうか?
ルーファスは懐中時計の秒針を見つめ、零時ちょうどに空を見上げた。
もし角笛が鳴らされても、ここまでは聞こえてこない。
まだわからない。
鐘の音が聖リューイ大聖堂の方角から鳴り響いて来た。
やがて鐘の音は街のあちこちから響きはじめ、夜空には壮大な花火が華を開かせた。
そして、咆吼と共に空を舞う国の守護者ヴァッファート。
「やったー!」
ルーファスは叫びながら両手を高く挙げた。
無事に建国記念祭が幕を開けたのだ。
一方のそのころビビは――。
「わっちの酒が飲めないってのか〜い!」
「ちょっと、もうキスとかしないでぇ〜!!」
涙目を浮かべながらリファリスに絡まれ襲われていたのだった。
第9話_角笛を吹き鳴らせ おしまい
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)