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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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アイツの姉貴はセクシー美女4


 王宮の執務室で待たされているルーファスたち。
 腹痛やあの異質な顔色は治まったが、ルーファスの顔色はまだ悪い。
 ディーナは穏やかな表情をしているが、先ほどから目を閉じ指を組んで祈りを捧げている。
 苛立つリファリスは部屋を行ったり来たり落ち着かない様子だ。
「ったく、どれだけ待たせれば気が済むんだい。わっちらは家族なんだ、それなのになにもわからないなんて!(もっと早くわっちが動けていれば)」
 あのとき、リファリスはレストランからローザを追いかけたが、見失ってしまいなにもできなかった。自分を責め、悔やむ気持ちが強い。
 しばらくしてルーベルが部屋に入ってきた。表情は読めず、その顔を見た途端にリファリスが襟首をつかんで飛び掛かった。
「ローザは!」
「犯人からの要求があった。ローザはまだ無事だ」
 淡々とした口調。自分の娘が人質にされているとは思えないほど、事務的に固い言葉を響かせた。
 それに腹を立てるリファリス。
「自分の娘がさらわれたんだ、もっと心配したらどうだ!(クソ野郎め、ローザにも冷たい態度を取りやがるのか!)」
「心配はしている。だがな、わしはローザの父である前に、政府の人間なのだ。職務を果たす義務がある」
「なにが職務だ、娘のことが1番に決まってるだろ!」
「国民が第一だ」
「ならその国民の中にローザも入ってるはずだろ!」
「国民とは個人のことをいうのではない。我らは国民全体、そして国のためになることを決断して遂行するのだ」
「まさか……いざとなったらローザを見捨てる気じゃないだろうな!」
 憎悪が胸の底から沸き立ってくる。今にもリファリスはその手でルーベルの首を絞めそうだった。
 静かにルーベルは口にする。
「テロには屈しない」
 揺るぎなさがその言葉からは伝わってきた。
 ついにリファリスの怒りは頂点に達し、ルーベルの首に手をかけた。
「この野郎!」
「わしを殺しても無用な痛みが増えるだけだぞ。痛みは最小限に留めなくてはならない。そのためであれば、最低限の犠牲者も已む得ぬ」
 ルーベルは動じない。首を絞められるまま動かない。そのまま殺される覚悟もしていた。
 それを止めたのは暖かな手だった。
「やめなさいリファリス」
 リファリスの腕を握ったのはディーナの手だった。
 静かな眼差しでディーナはリファリスの瞳の奥まで見つめた。
「パパは冷酷無情なひとではありませんよ。ローザにもしものことがあったとき、誰よりも傷つくのはパパでしょう。家族として傷つき、犠牲を決断したことで傷つき、さらに多くの批判でも傷つくでしょう。パパはその覚悟をした上で揺るがないのよ」
 ディーナの言葉を聞いてもリファリスは納得できなかった。
「そんな決断をしなきゃいけない職なんて捨ててしまえばいい! なにがあってもローザを助けることを考えろよ!」
 襟首を直してルーベルは無慈悲の仮面を被った。
「嫌な役目だろうと誰かがやらねばならんのだ。綺麗事が通用しない道を選ばなくてはならないときがある。そのときに揺らいではならないのだ、たとえ傷つく者がいようとも心を鬼にして決断しなくてはならないのだ。そうしなければ、さらなる犠牲者が出ることになるのだ」
 リファリスは髪の毛を掻き毟り、床を叩くように蹴った。
「クソッ!(言いたいことはわかるよ、でもそういう問題じゃないだろ)」
 国としての大義名分なら、多くを救うため多少の犠牲もやむを得ない。
 しかし、傷つき苦しむ何の罪のないひとを自分の間近で見たら、世界を救うためだとしても見殺しにすることができるだろうか。
 リファリスにはそれができない。ルーベルにはそれができる。
 部屋の中にはいつの間にか第三者が立っていた。
「38年前のカルッタ事件のことを言っておるのだろ、アルハザード?」
 その姿を確認してルーベルやほかの者は畏まった。
 この場に姿を見せたのは第10代アステア国王クラウス・アステアであった。
「畏まらないでくれたまえ、今の僕はルーファスの一友人として様子を見に来ただけなのだから。家族のみなさんの心中はお察しします、国王としての立場から全力でご家族を救えるように務めます」
 リファリスはその言葉を聞いて安堵した。ウソだとしても、前向きな言葉が聞けて良かった。
 クラウスはルーベルの前に立った。
「カルッタ事件の際、猛抗議の末に出世の道から一時外れたそうだな?」
「はい、仰せの通りです(国王陛下からまさかその話が出るとは)」
「貴公の助言を聞かなかった当時の役人たちは、テロの威しに屈して拘留中のメンバーを解放し、さらには金まで渡したそうだ。のちに解放されたメンバーたちはいくつもの事件を起こし、多くの尊い人命が失われることになった」
「(その犠牲者の中に父がいたのだ)」
 だからルーベルはテロには屈しない。気持ちが揺らぐことで、なにが起きるか誰よりも痛感しているからだ。
 なにを思ったのか、リファリスは椅子に座っているルーファスの首根っこをつかんだ。
「塞ぎ込んでんじゃないよ、行くよ!」
「えっ?」
「そこのクソ野郎がテロには屈しないってほざいてやがるなら、わっちらはわっちらのできることをすればいいだけさ」
「え? え、えっ!?」
「いいから、わっちらでローザを助けに行くんだよ!」
 ルーファスを引きずりながらリファリスは部屋を出て行ってしまった。
 祈りを捧げるディーナ。
 出て行った二人と入れ替わりで役人が飛び込んできた。
「大変です!」
 クラウスは口を閉ざし役人の次の言葉に耳を傾け、ルーベルは眉間にしわを寄せながら促した。
「なにがあったというのだ!」
 萎縮する役人だったがすぐに言葉を発する。
「そ、それが……拘置所からアルドラシルのライガス・レイドネスが連れ去られました」
 それはアルドラシルのナンバー3の名前。教団員が釈放を求めていた男の名だ。
 クラウスもルーベルも驚きを隠せなかった。
 鬼のような表情でルーベルは役人に詰め寄った。
「どういうことだ! アルドラシルの仕業なのか!!」
「それが……どうやら違うようで」
「違うだと?(ほかの者がなんの目的で?)」
「レイドネスを連れ去ったのは、マスクをした赤髪の女で……」
「馬鹿な……(いや、今出て行ったばかりだ。わしとしたことが取り乱してしまった)」
 ルーベルの頭に真っ先に浮かんだのはリファリスだった。だが、リファリスに犯行が不可能なことは明らかだ。
 クラウスは深く頷いた。
「噂の義賊か……薔薇仮面という通称で呼ばれていたな。しかし、なぜ彼女がアルドラシルのメンバーを手助けするような真似をする?」
 その問いには答えず、ルーベルは別の言葉をクラウスに投げかける。
「本物の薔薇仮面であろうと、そうでなかろうと、さらに義賊であろうと犯罪者は犯罪者です国王陛下。どんな理由があろうと、投獄を手助けすれば罪」
「どんな理由があろうと自国の民を見殺しにすれば非難されるのと同じか?」
「わしは自分の信じた道を揺るがず歩き続けておるだけです」
「そうやって貴公は私が被るべき泥も代わりに被ってくれている」
「希望の光は一点のくすみすら許されない故」
 国王の高潔を守るためにもルーベルは揺るがない。