魔導士ルーファス(1)
てゆーか、熱帯魚を散歩させるって犬じゃないんだから。
じゃなくって!
「熱帯魚に肖像権とかないでしょう(そんな裁判聞いたことないよ)」
ルーファスのツッコミ炸裂。
「まずはABCたちの住民票を作るところからはじめようと思うんだ(ふあふあ)」
「たぶん交付されないと思うけど」
「外国人や悪魔や亜人、その他の種族にも権利はあるよ?(ふにふに)」
「それは彼らが知性と文明を持った生物だからで、熱帯魚になんかに国で与えられる権利なんかないよ」
「……あっ!(ふにゃ)」
天地がひっくり返るような、驚き顔をローゼンクロイツは作った。
そして、ボソッとひと言。
「ABCに餌あげるの忘れてた(ふあふあ)」
そんなに大事な熱帯魚なのに、なぜ餌を忘れる!!
それはローゼンクロイツの物忘れが激しいから。
そんなローゼンクロイツにアインは――。
「萌え〜っ!」
再び声をあげて周りの視線を集めるアイン。顔を真っ赤にして物陰に潜んだ。
そんなアインを見ていたルーファスが、再びローゼンクロイツにヒソヒソ話をする。
「いい加減ビシッと言ったほうがいいよ。そうでないといつまでも付きまとわれるよ(なんか芸能人みたいでカッコイイけど)」
「そうだね(ふにふに)。ビシッと言って来よう(ふあふあ)」
ツカツカと正確な歩調でローゼンクロイツは進み、アインは緊張で逃げることもできなかった。
そして、ローゼンクロイツはビシッと指を差して言う。
「ビシッと!(ふにゃっ!)」
文字通りビシッと言って、踵で180度回転してローゼンクロイツは去っていく。
ビシッと指さされたアインは、キューピッドの矢に射抜かれたように、胸キュンだ。
余計にアインはときめいてしまった。逆効果だ。
トキメキすぎてアインはその場で気絶した。
気絶したアインはニタニタ笑いを浮かべて幸せそうだった。
これで死ねるなら本望だろう。
ビシッと効果でストーカーを振り切ったローゼンクロイツ。ルーファスと魔導学院の正門を出る寸前だった。
突然、ローゼンクロイツが足止めた。
「……そうだ(ふにゃ)」
「なに?」
「朝食食べるの忘れた(ふあふあ)」
「はぁ?」
「……そうだ(ふにゃ)」
「なに?(2回連続?)」
「昨日寝るの忘れれた(ふあふあ)」
「はぁ!?(寝るの忘れるって異常だよ)」
「……そうだ(ふにゃ)」
「また?(3回連続なんて珍しい)」
「ABCに餌あげるの忘れてた(ふあふあ)」
「それさっき言ったし(なんかいつもより重症だぞ)」
心配そうにルーファスはローゼンクロイツを覗き込んだ。
日ごろから物忘れの激しいローゼンクロイツだが、いつも一緒のルーファスはなにか不安を感じた。
そういえば、最近?発作?もよく起こしているようだった。
ローゼンクロイツの発作というのは――なんて言ってる先から!
「はっくしょん!(ふにゃ)」
大きなクシャミをしたローゼンクロイツ。ルーファスが止める間もなかった。
これはあまりよろしくない事態だ。
周りには下校途中に生徒もたくさんいらっしゃる。
メタモルフォーゼ!!
つまりローゼンクロイツ変身!
ローゼンクロイツの頭に、ひょこッとネコミミが生えた。
ローゼンクロイツのお尻に、ぴょんとしっぽが生えた。
ローゼンクロイツの口が、ニヤリと笑う。
「ふにふにぃ〜」
羊雲のような声を発したローゼンクロイツ。今の彼はまさしく猫人間→略して猫人。
1月1日生まれのローゼンクロイツの特殊体質。クシャミをすると猫人になる。
しかも、人語もまったく通じずトランス状態のローゼンクロイツは、理不尽な破壊活動を行なうのだった。
デンパを発する人畜有害生物だ。
そんなローゼンクロイツがルーファスの手に負えるはずもなく、ここは逃げるしかない。
ルーファス逃亡!
しようと思ったのに遅かった。
電気を帯びた伸縮自在のしっぽがルーファスを襲う。『しっぽふにふに』という打撃魔法(?)だ。
ローゼンクロイツのお尻から伸びたしっぽが、自由気ままに縦横無尽に暴れまわる。
辺りを歩いていた生徒たちも一目散に逃げる。
そんな中、逃げ遅れたルーファスにしっぽ直撃!
ビリビリと肩に電気が走ったルーファスは腰痛回復。
『しっぽふにふに』の電力は低圧から高圧。気分と運次第で違う。今のは運がよかったほうだ。
次のしっぽがルーファスの足元に迫る!
ルーファスジャンプ!
しっぽは1周して再びルーファスの足元に迫る!
ルーファスジャンプ!
またしっぽは1周して再びルーファスの足元に迫る!
ルーファスジャンプ!
またまたしっぽは1周して再びルーファスの足元に迫る!
ルーファスジャンプ!
ローゼンクロイツとルーファスの奇跡のコラボレーション技、しっぽ大縄跳びが生まれた。
自然と生徒から拍手がもらえる必殺技だ。
なんてことをしているうちにローゼンクロイツが飽きた。
突然、四つ足をついてローゼンクロイツが走り出した。
通常のダッシュよりも早く、運動苦手なルーファスには到底追いつけない。
しかし、ルーファスは行き先の検討がついていた。
学院内で発作が起きたとき、いつもローゼンクロイツが行く場所があるのだ。
寄り道しながら破壊活動を行なうローゼンクロイツをほっといて、ルーファスは一直線でその場所に向かった。
寄り道のせいか、ルーファスとローゼンクロイツがその場にたどり着いたのは、ほぼ一緒。
学院の時を司る何十メートルもある時計搭。入り口からローゼンクロイツは一気に駆け上る。すぐにルーファスもあとを追った。
階段をゼーハーゼーハー置いてけぼりのルーファス。
その耳に甲高い金の音が鳴り響いた。
ゴーンと一発、ローゼンクロイツが巨大な鐘にヘッドアタック!
そのままローゼンクロイツは気を失った。
駆けつけたルーファスはローゼンクロイツを抱きかかえる。
「大丈夫ローゼンクロイツ?」
「……ふにゃ?(ふにゃふにゃ)」
目をパッチリ開けたローゼンクロイツからは、耳もしっぽも消えていた。元の人間に戻ったのだ。
なぜか近距離で見詰め合う2人。
ここでローゼンクロイツがひと言。
「ボクの唇を奪う気?(ふあふあ)」
「違うし!」
「……知ってる(ふっ)」
無表情な顔についた口が一瞬だけ歪み、すぐに無表情に戻る。
いつものように、またからかわれた。
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)