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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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リューク国立病院の怪異4


 夜になって、ルーファスがぐっすり眠っていると、誰かの呼ぶ声がした。
「ルーちゃん起きて、起きてってばぁ」
「……あと……5分……1分でいいから……ふにゃふにゃ」
「ルーちゃんってば、寝ぼけてないで起きてよぉ」
「ああ……もぉ……もう少し……ビビ!?」
 ビックリしてルーファスは目を覚ました。
「なんでビビがいるの?」
「忘れちゃったのぉ?」
 少しビビは顔を膨らませた。
 そーいえば、肝試しだか、オバケ退治だか、花火大会だか、なんかの約束をしたようなしてないような気がする。
「ホントにやるんだ(ってことはカーシャも来るのかな)」
「バッチリ準備万端だよ♪」
 ビビはお出かけ用のショルダーバッグと、脇には松葉杖を抱えていた。
 松葉杖を持ってきたことから、相手が病人だという認識はあるらしいが、その認識がありながらオバケ探しで引きずり回すのはヒドイ。仔悪魔っていうか、悪魔の所業だ。
 なのに満面の笑みを浮かべているビビを見ると、なんか騙されてしまう。
「早く行こうよルーちゃん(ドキドキワクワク)」
「ここまで来たら行くけどさー、その前に足を外してくれないかな?」
 ルーファスの右足は吊り下げられ固定されている。心なしか昨日よりも頑丈に固定されているような気がする。
 それをビビちゃんが無理やり破壊。
「出来たよ、早く行こ」
 ベッドの脇には、グチャグチャになっている布やら、引き裂かれたヒモやら、強い力で曲げられたアルミパイプが……。治療代から差し引かれるに違いない。
 松葉杖を受け取りルーファスはベッドから降りた。
「行くのはいいけど、どこに行くの?」
「テキトーに行けばいいんじゃないのぉ?」
 アバウトだ。
「この病院結構広いよ」
「じゃあ……トイレとか霊安室とか行く?」
「どっちもイヤだ(特にトイレは行きたくない)」
「ワガママだなぁ」
 そういう問題なのか?
 ピョンシーが本当にいると仮定して(ビビのモーソーの産物でないと仮定して)、ビビの話によるとピョンシーの元は人間の屍体らしい。ということは、霊安室がもっとも有力かもしれない。
 しかし、ビビは!!
「末期患者を探せばいんだよね!」
「はぁ!?」
「だって屍体は鮮度が重要なんだよ(魂を狩るなら元気な人の方が美味しいけど)」
 いくら鮮度が重要でも、末期患者はまだ死んでいない。
「人がいつ死ぬかなんてわからないし、人が死ぬの待つなんて失礼だよ」
「これでもアタシ魂を糧にしてるちょーカワイイ悪魔なんだけど。末期患者の死期くらいなら視えるかな(もっと修行すればいろんな人の死期が視えるらしいけど、メンドクサイんだよねー)」
 そんなわけで、強引なビビに引きずられて病院の外に来た。
 廊下はひんやりと静かだ。
 耳をそばだてるビビ。
「……誰か来る!」
「えっ、どっち?」
 足音が聞こえないルーファスは左右を見渡した。
 すると、走っているような足音がだんだん近づいてくるのがわかった。
 ルーファスフリーズ。
「ま、まさか……」
 もうダッシュで近づいてくるアフロヘアーのシルエット。
 トイレのベンジョンソンさんだ!!
 って、なんでいるの!
 ビビは呆然と走ってくるベンジョンソンさんは眺めている。
「なにアレ?」 
「トイレのベンジョンソンだよ!」
「意味不明だよ(なにトイレのベンジョンソンサンって)」
 逃げようとしないビビの手を引っ張り、ルーファスは必死こいて逃げ出した。
 松葉杖を放り出して、ぴょんぴょん、ぴょんぴょん逃げる。
 引っ張られるビビはきょとんとしている。
「なんで逃げなきゃいけないの?」
「なんでって、追っかけて来てる人見た?!」
 追いかけてくるのは、犬顔のボクサー。もちろん頭はアフロヘアーだ。
 どう見ても怪しい!!
「でも、別に逃げなくてもぉ」
 立ち止まったビビに合わせてルーファスも止まった。
「だって怖いでしょ、早く逃げ――ッ!?」
 ルーファスとビビは目を丸くして口を大きく開いた。
 次の瞬間、顔を蹴られてぶっ飛ぶベンジョンソンさん!!
 グフッ!
 冷たい廊下にベンジョンソンさんは沈んだ。
 そして、10カウントが過ぎた。
 カンカンカン、ゴングが鳴り響き勝者――カーシャ!!
「はぁ! なんでカーシャがいるのさ!」
 驚くルーファスの視線の先で、カーシャは静かに微笑んでいた。
「いては悪いか?」
「そういうわけじゃないけどさ、なんでベンジョンソンさんをのしてるの……」
「こいつはベンジョンソンさんではない。ただの変質者だ」
「そうなの?(でも話に出てくる格好と同じだけど)」
「うむ、ボクサーマニアの入院患者だそうだ」
 トイレのベンジョンソンさんでもなければ、マニアなのでボクサーでもない。ただの変質者だ。
 怖がって損した。
 しかし、本当に怖かったのはこの変質者だろう。
 ボコボコに殴られたか蹴られたかして、この変質者の顔はボコボコで原型をとどめていなかった。誰がやったのかはあえて言わない。なんか赤い靴を履いてる人がいるけど、突っ込んではいけない。
 カーシャは虫の息の変質者の足を持ち上げた。
「では妾はこやつを治安所に連行する(ふふ、懸賞金もらえるといいな)」
 変質者を引きずって、ついでに赤い線を引きながら、カーシャは闇の中に姿を消した。
 いったいカーシャは何しに来たんだ?
 てゆーか、オバケを捜索しに来たんじゃないのか?
「てゆーか、治安所より病院が先でしょ」
 と、ルーファスは呟いた。
 ちなみにここは病院だった。病院で大怪我をした変質者。カーシャに出遭ったのが運のつきだったのだろう。
 偽ベンジョンソンさんが現れたことにより、当初の目的が遠ざかってしまった。ここから軌道修正して、当初の目的を思い出そう。
 そうだ、ピョンシーを探しているのだ。
 が、ここで問題発覚!
 ルーファスが口にする。
「松葉杖落とした」
 落し物としては、通常ではありえない落し物だ。偽ベンジョンソンさんから逃げる際、どこかに放ってしまったのだ。
 ビビは自分より背の高いルーファスを、下から丸い目で覗いた。
「元来た道にあるんじゃないのぉ?」
「そうだね」
 それほど長い距離を逃げたわけでもなく、すぐに近くにあるはずだ。おそらく、ルーファスの病室を出てすぐの場所だ。
 ルーファスはぴょんぴょん、もちろんビビは普通に歩いて廊下を引き返す。
 すると、ルーファスの部屋が近くなってきたところで、ビビが足を止め、ルーファスも慌てて足を止めた。
 ビビは口の前で人差し指を立て、『しーっ』とルーファスに合図を送った。
 そして、ルーファスの部屋のドアが開くと同時に、ビビはルーファスを引っ張って曲がり角に身を隠した。
 何者かがルーファスの部屋から出てきた。
 足音が遠ざかっていくのを確認して、ビビは曲がり角から顔を出した。
 廊下の先を歩く長身の黒い影。ジャンプで移動していないのでピョンシーではないらしい。
 しかし、あの影はどう見ても人間じゃない。
 長く細い腕から伸びる手の先が廊下にまで届いているのだ。
「追いかけよ」
 ビビが小声で言い、ルーファスは首を横に振った。
「ヤダよ」
「いいから行くのぉ」