魔導士ルーファス(1)
「そうだ、ルーちゃん知ってる?」
作戦、無理やり話を切り出して、さっきのことは水に流してみる。気持ちも心機一転、笑顔のビビ。笑顔をビビの得意技だった。
「なに?」
「この病院にオバケが出るらしいよ」
「蜘蛛男?」
「はぁ?(それってオバケじゃなくて怪人じゃん)」
蜘蛛男(ルーファス)ではないらしい。となると、ローゼンクロイツの話してくれた話ではないっぽい。
話に乗ってきたルーファスを見るビビのキラキラ目線。ちょっと自慢げ。
「教えて欲しい?」
「いや、別に……(怖いからそんなに聞きたくないなぁ)」
「もしかしてルーちゃん怖いの?」
「ギクッ! そ、そんなことないよ!」
「ルーちゃん焦りすぎ(ホントわかりやすいんだから)」
「焦ってなんかないよ!」
無意味に手で防御体勢をするルーファス。完全に取り乱していた。
ルーファスを困らせてやろうとビビは話を続ける。
「実はね……」
「実は……?(あんまり怖くありませんように)」
ゴクンとルーファスは咽喉を鳴らした。と同時にビビが大声を出す。
「ピョンシーが出たんだって!」
「はぁ?(なにそれ)」
「ルーちゃんピョンシー知らないの?(ダッサー、ちょーポピュラーな妖怪じゃん)」
ビビの主観なので本当にポピュラーがどうかはわからない。
なんだかルーファスの恐怖は吹っ飛んだ。聞いたことも見たこともなく、ネーミングもそんなに怖そうじゃない。
「ピョンシーなんて聞いたことないよ。詳しく教えてよ(なんか可愛いウサギの名前みたい)」
「元々人間の屍体なんだけど、そこに闇の力が宿って怪物になるんだよ。ピョンピョン飛んで移動するからピョンシーって名前になったんだって」
「ジャンプしながら移動するアンデッドってこと?」
「うんうん、原産地は東方の国だったかなぁ」
あまり怖そうな感じがしない。特にピョンピョン跳ねるところが、逆にユーモラスに感じられる。
けれど、実際に追いかけられたら怖いかもしれない。
ルーファスの脳裏にトイレのベンジョンソンさんが思い浮かぶ。見た目は犬顔のアフロなのに、追っかけられたときはそれが怖かった。
「(でもあれは夢だ。絶対に夢だ)」
ルーファスは昨晩の出来事を夢と思っているのではなく、夢だと思い込みたいようだった。
「そんなわけだからルーちゃん、今夜調べてみようよ!」
唐突なビビのセリフにルーファス驚く。
「はぁ!?」
「ルーちゃんの代わりにアタシが夜までに準備しとくね♪」
「はぁ?」
「じゃあねルーちゃん、またねー!(夜が楽しみ)」
元気よく笑顔でビビは部屋を後にしていった。一度火がついたビビは止まらないらしい。
「あの、だから、足治ってないんだけど……」
ルーファスは呟いた。だが、ビビはとっくに病室を後にしていた。
独り残された病室に思いため息が漏れた。
天井をボーっと眺めていると、しばらくしてノックが聴こえた。
「どうぞ」
と、ルーファスが合図をすると、ドアを数センチだけ開けて何者かの瞳が部屋の中を覗いた。
「ふふふっ、見舞いに来てやったぞ、へっぽこ」
ドアを大きく開いて入ってきたのはカーシャだった。
ここでルーファスはローゼンクロイツにもした質問をする。
「学校は?(カーシャまでサボリってころはないよね)」
カーシャは魔導学院の教員である。
「昼休みだ(ルーファスのところに来れば、なにか面白そうなことがありそうだと思ったが、なにもなさそうだな)」
「もう昼休みの時間なんだぁ。じゃなくて、昼休みって結構すぐ終わると思うんだけど」
「いざとなれば自習にでもすればよかろう(ぶっちゃけ、ルーファスのいない学院はつまらん)」
「(そろそろこの人クビになってもいいと思うんだけどなぁ)ちゃんと授業しないとクビになるよ」
「そのときはそのときだろう。ところでルーファス、茶!」
病人にお茶を出せ攻撃!
人使いが荒いという限度を越えて、カーシャは怪我人を怪我人と思ってないほど、自己中心的な女だった。
「お茶なら、そのポットで自分でいれてよ」
「客人に茶をいれさせるなど、どういう神経をしてるのだ(ホントつかえんやつだ)」
それはこっちのセリフだ。
ブツブツ愚痴を言いながらお茶をいれるカーシャ。その姿を見ながら、ルーファスはため息を付かずにはいられなかった。
「……はぁ(カーシャってホント人をいたわるってこと知らないよね)。ところでカーシャ何しに来たの?」
「見舞いに決まってるだろう、アホかお前は?」
「(アホじゃないし)だってさ、わざわざ昼休み来るなんて、なんかあるのなぁって思うじゃん」
「特にない」
キッパリ、アッサリ、サッパリ答え、言葉を続ける。
「しいていうなら、面白いことを探しにきた」
「はぁ?」
「なにかないか?」
そんなこと突然聞かれても困る。
「なにかって言われても……病院にオバケが出たらしいって話くらいしかないかなぁ」
「どうしてそんな面白いことを早く言わんのだ」
「話の流れってあるでしょ」
「よし決めたぞ。今夜この病院を捜索するぞ。もちろんお前も一緒だ(今年初の肝試しだ……ふふ、楽しみ)」
「は、はい?」
「では、また夜に来る」
勝手に話を進めてカーシャは部屋を出て行ってしまった。
残されたルーファスは呟く。
「だから足が治ってないから……」
どいつもこいつもルーファスが怪我人だということが、頭からスッポリ抜けているらしい。
頑張れルーファス!
負けるなルーファス!
作品名:魔導士ルーファス(1) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)