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おじいさんとネコドローン

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ご婦人はそんなぺぺに気づきませんでした。
ペペはおじいさんの家に戻りました。
ロッキングチェアの肘かけにおじいさんのひざ掛けがぶら下がっていました。
ペペは赤いひさ掛けの端を持ちあげました。
すると、ひざ掛けの中から、ニャッ!という声がしました。
ルルでした。
ひざ掛けの中にくるまっていたのです。
「ニャーオ!ニャオ(びっくりした、ルルちゃんか)」
「ニャオ?(どうしたの?)」
「ニャーオ、ニャオニャーオ(僕の寝床にこれと同じものがあるから、使っていいよ」
ペペはおじいさんのひざ掛けを掴んだまま、玄関から出ようとしました。
そのときです。
玄関の外から強い風が吹いてきて、ペペを家の中に押し戻しました。
ひざ掛けがペペの手から落ちました。
カタン。
居間のほうからものが倒れる音。
それを、ぺぺは聞きのがしませんでした。
ピンときました。
果たして、倒れたのは、本棚に飾られていた写真立てでした。
拾いかけたひざ掛けを離し、ペペは写真立てを掴みました。
それは想像以上に重くて掴みにくいものでした。
けれども、ぺぺは頑張りました。
全身全霊の力を振り絞って、写真立てを掴んだまま、全速力で葬儀の場所に向かいました。
葬儀の場所に戻ると、まさに棺の蓋が閉じられる寸前でした。
ペペは自分史上最高のパフォーマンスを発揮して、棺と蓋の間にもぐりこみました。
誰もペペの姿に気づかなかったくらいの速さです。
おじいさんの組まれた手の上に、ペペはそっと写真立てを置きました。
「ニャーオ」
ぺぺはおじいさんに呼びかけましたが、返事はありませんでした。
ガッタン。
棺の蓋が閉じられました。
棺の蓋は非常に重くて、ぺぺが押したくらいでは開きません。
ぺぺは棺の中に閉じこめられました。
ハタと気づいて、ぺぺは通信可能な電波を探りました。
1本だけありました。
それは、ネズミドローン捕獲に関する連絡用電波でした。
ペペはがっくりしました。
この1年間、ぺぺはまったく、1匹もネズミドローンを捕まえることができなかったのです。
命運が尽きたことを、ペペは知りました。
カミサマノオボシメシ、と呟きながら、連絡用電波を切断しました。
真っ暗な棺の中、ペペはからだについている発光機能をすべてONにしました。
真っ暗だった棺の中が、ぼんやり明るくなりました。
おじいさんの顔が見えました。
写真立ての写真も、ほのかに浮かびあがりました。
ぺぺはおじいさんのひざの間に身を潜めました。
そしてそこで、ぺぺは、安らかなおじいさんの顔と、写真立ての中の奥さんの顔を照らしました。
やがて来るであろうその時まで、ぺぺはずっとずっと、ふたりを照らし続けました。





作品名:おじいさんとネコドローン 作家名:JAY-TA