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おじいさんとネコドローン

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そこでペペは庭の池の上を飛びまわりました。
すると、いました。
カエル型ドローン。
ピョンピョンと跳ねるような飛び方をします。
時折とまってはゲロゲロと鳴き、また跳ねます。
そのユーモラスな動きに、ペペは興味を惹かれました。
カエルドローンと並んで、ピョンピョンと跳びはねる真似をしました。
スロースロークイッククイック。
ゲロゲロと鳴く真似も学びました。
ペペは、それが楽しくてしかたありませんでした。
カエルドローンと遊んでいると、カエルドローンは大きく跳ねて、池の中にダイブしました。
ポチャーン
ペペも大きく跳ねて池の中へ。
あ、いけない!と思ったときには、もう手遅れ。
ザブーン
ペペは池の中に落っこちてしまいました。
カエル型ドローンは完全防水で水陸両用。
しかしネコ型ドローンのペペは簡易防水で、水没は危険でした。
ペペは慌てて陸の上にあがりました。
しかし動くことができません。
水草がからだに絡まってしまっているのです。
タオルを手に、おじいさんはずぶ寝れのペペを抱きあげました。
ペペのからだから水草を丁寧に取りのぞき、笑いながら言いました。
「ペペはほんとに、ドジなんだから」
ゲロゲロ、ゲロゲロ。


夏の熱い日でした。
おじいさんの大きな家には、エアーコンディショナーがありません。
天井板のない吹き抜けになっている構造だからです。
そのかわり各部屋に送風機があるのですが、なかなか涼しくなりません。
暑がりのペペは梁の上で過ごすことが多くなりました。
おじいさんはうちわで顔の汗を扇ぎながら、チェスを打っています。
玄関のチャイムが鳴りました。
おじいさんが誰か尋ねる前に、チャイムの主は「宅配便です」と名乗りました。
「ようやく届いたか」
おじいさんは宅配ドローンから大きな箱を受け取りました。
箱を開けると、中身は手押し車(カート)でした。
ハンドルの前にケージがついています。
ネコ型ドローンは基本、外出はできません。
ただしケージに入れられての移動は可というのがこの町のルール。
「ぺぺ。これでお前と外出できるぞ」
次の日、おじいさんはペペを連れて外出しました。
サンドイッチとワインを持って、近くの公園に行きました。
樹木に挟まれた舗道と、小さな芝生広場がありした。
舗道にも芝生広場にも人影はありません。
おじいさんは木陰になっているベンチに腰かけました。
テーブル台代わりになる切り株に、サンドイッチとワインを置きました。
芝生広場の反対側に人の姿を、おじいさんは見かけました。
同じようにベンチに座り、軽いブランチをとるご婦人のようでした。
すぐそばにケージ付きのカートが置いてあるのも同じでした。
気にとめることなくおじいさんはサンドイッチを口に運ぼうとしました。
すると、ケージの中のぺぺがニャーオと啼きました。
「どうしたペペ。お前も食べたいのか? いや冗談だ。あ、そうか」
と言っておじいさんはケージの扉を開けました。
公園内ではネコ型ドローンは、飼い主の目の届く範囲で自由に遊びまわっていい。
そういうルールでした。
ぺぺはベンチに座ったり切り株に乗ったり、おじいさんの周りをチョロチョロしました。
向かいのご婦人のケージも開きました。
中からネコ型ドローンが出てきました。
ご婦人の周りを飛びまわります。
チョロチョロに飽きたペペは、大きな木の枝で遊ぶようになりました。
向かいのネコドローンも木の周りを飛び始めます。
いつしかペペと向かいのネコドローンは、同じ木の枝にとまりました。
実は動物ドローンは同類同士のみ共通言語で意思疎通できるのです。
「ルル、ルル」
ご婦人にルルと呼ばれたネコドローンは、自分のケージに帰っていきました。
サンドイッチを食べワインを飲み終えたおじいさんは、杖をついて立ちあがりました。
「帰るとするか、ぺぺ」


それから何日かたったある日のことでした。
おじいさんは庭の水やりを終え、縁側でくつろいでいました。
ペペは風通しの良い梁の上でひと休みしています。
玄関チャイムがまたまた鳴りました。
「ペペ。見てきておくれ」
おじいさんに言われ、ペペは玄関に向かいました。
あとからおじいさんの声が追いかけてきました。
「宅配便なら、そこに置いて帰ってもらって」
ペペは玄関ドアの覗き穴から外を見ました。
来客は公園で見かけたご婦人でした。
ペペはおじいさんのところに戻りました。
「宅配便だったか、ペペ」
ペペは小さく啼いて首を横に振りました。
「宅配便じゃないのか」
ペペはニャーオと大きく啼きました。
おじいさんは腰を浮かして身なりを整えて玄関に向かいました。
「どなたかな?」
おじいさんが玄関の扉を開けると、戸口にご婦人がにこやかに立っていま
した。
ご婦人の隣には、ケージ付きのカート。
ケージの中にはネコ型ドローンがいます。
「突然おじゃまして申し訳ありません」
ご婦人はたいへん済まなさそうな顔をしました。
「どうされましたか?」
「いえね、うちのルルが言うんですけれど、お宅様のお庭がたいそう美しくて見事だから、ぜひ見たいと。何度もせがまれて・・・」
「誰がそんなことを・・・」
「お宅様のネコちゃんから」
「ペペが・・・」
おじいさんはペペを目で探しました。
ペペはものかげに隠れました。
「ご迷惑ですよね」
「や、それより、あなたの飼いネコはお話をするのですか?」
「ええ、まあ・・・」
ネコ型ドローンの上位機種には翻訳機能がついていることを思いだして、おじいさんは頭をかきました。
「うちのルルのわがままですから、私はこれにて失礼します」
ご婦人が帰りかけるのを、おじいさんは
「いえ、迷惑なんかじゃありません」
と呼びとめました。
おじいさんはご婦人を居間に招きいれ、ワインを振る舞いました。
テーブルを挟んで、おじいさんとご婦人は世間話に花を咲かせました。
ご婦人はこの町にやってきたばかりでまだ知り合いがいないとか、アパート住まいで庭のあるお家に越そうか迷っているなどの話をしました。
おじいさんはご婦人に、ワインやボトルシップの話をしました。
その間、ペペとルルは、庭で楽しい時間を過ごしました。
「ごちそうさまでした」
おじいさんに何度も礼を言って、ご婦人とルルは帰っていきました。
ふーっ、とため息をつき、おじいさんは椅子に座りました。
そして
「ペペ!」
とペペをテーブルの上に呼びだしました。
「お前、やってくれたな」
「ニャオ?」
「ニャオじゃない。お前、あのご婦人のネコちゃんと示し合わせただろ」
「ニャーオ」
ペペは、一歩二歩後ずさりしました。
「まさかペペ、お前、あのネコちゃんと仲良くなりたかったわけではあるまい」
「ニャーオ」
「もしかして、お前は私がひとりで淋しい思いをしているとでも思ったのか? それであのご婦人が私の家に訪ねてくるよう企てだか?」
「ニャーオ」
ペペはテーブルから落ちかけるまで後ずさりしました。
「もしそうだとしたら、ペペの気の回しすぎだ」
おじいさんはペペを手招きしました。
「あのご婦人はいい人だ。話をしていても楽しい」
「ニャーオ」
「でもなペペ、私はひとりで暮らしていて、淋しいと思ったことは一度たりともない」
作品名:おじいさんとネコドローン 作家名:JAY-TA