去りゆく人へ
教授が教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。今日はこの経過報告について言っておきたいことが・・・」
ああ、そっか。
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いつからかこの生活が当たり前になった。
入学した時のことを忘れたわけじゃない。
いつかは終わりが来ることも、この時が永遠ではないことも、出会った人ともいつかは別れることも、そして、過去を追い越して前に進まなければいけないことも。
分かっていたはずだった。
恐れた。
逃げた。
新しく何かを始めること、新しい出会い、新しい自分。
ボクは楽をしていたんだと思う。
「どうせもう卒業するから・・・」って。
大学生活で貯めた思い出と人を、貯金を切り崩すように使って。
今、ゼロになったんだ。
ボクは大きく息を吐くと静かに目を閉じた。
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僕はその日、街に出た。
大学も無いのに外出するのは久しぶりのことだった。
街の広葉樹は仄かに色づき、いつの間にか風が冷たくなっている。
平日の昼間に出かけられるのも学生時代ならではだろう。
僕の大学生活は、最後の青春時代はもうすぐ、終わる。
色々な人に出会った。
色々なことがあった。
速度は違うけど、どれも僕を追い越し、通り過ぎて行った。
だからこそ、アルバイト、同好会、教室、スポーツ、
何でもいい。
新しいことを、しよう。
そうしてまた、人に出逢っては別れよう。
手にしては失おう。
僕の心の中であの時は、あの人は、あの日のままで、永遠に生き続ける。
「あの、そこのお兄さん、ちょっといいですか。」
「あ、はい。」
そこにはテレビでよく見るキャスターがいた。
「わたくし、『神さまの言う通り』という番組のキャスターをしています、鈴谷と申します。実は今、待ちゆく若者に、『青春』というテーマでインタビューをしていまして。」
「はあ。」
「なんというか、凛々しい感じで歩いていたので、もしよろしかったらインタビューさせて頂きませんか。」
「いいですよ。」
「ありがとうございます。早速ですが、青春時代に自分を変えた出来事とかありますか。」
マイクが向けられる。
「そうですね、僕はついこの前まで・・・」
完