フリーソウルズ2
Scene.38
謎の光
どことは定かでない田舎道を歩き続ける裕司とジロー。
時々舌を出して体温調節しながらどんどん進んでいくジロー。
足どりの重い裕司。
遠くに見える山脈にまもなく太陽が沈もうとしている。
ビニールハウスや果樹園が広がる農村地帯を抜ける裕司たち。
山肌に貼りつくような民家が谷間に点在する山間の村を通り過ぎる裕司たち。
長い橋を渡りながら振り返る裕司。
山のかなたに輪郭のぼやけた夕陽が沈む。
通りがかったトラックがとぼとぼ歩く裕司を追い越して停まる。
運転手 「(ウィンドウをおろして)乗っけてやろうか?」
ジローも一緒にという意思表示をする裕司。
首を横に振る運転手。
走り去るトラック。
クゥッっと小さく啼くジロー。
ジローの頭を撫でる裕司。
リュックを背負い直しゆるやかに登り坂を歩き続ける裕司たち。
太陽が沈み夜の帳がおりる。
東の空にわずかに欠けた月が顔を出す。
薄い雲がかかる弱い月あかりに車道の白線がぼんやりと浮かびあがる。
山は黒い森に覆われ人家はない。
トラック以来往来する車はない。
落石注意や獣飛び出し注意の道路標識だけがある。
それ以外の看板の類や現在地を判別する道標は一切ない。
わずかな月あかりと白線だけを頼りに山深い車道の脇を黙々と歩き続ける裕司たち。
疲労感が増してくる裕司。
たびたび立ち止まってひと休みする裕司。
何度目かに立ち止まって夜空を見ようと顔をあげる裕司。
真っ白な強烈な光。
裕司の視界いっぱいに広がる月光眩しい光。
眩暈を感じる裕司。
身体が軽くなる感覚を感じる裕司。
操り人形のように持ち上げられる裕司の身体。
裕司の両足のつま先が地面から離れよる。
裕司のリュックサックが肩から地面に落ちる。
光に包まれたジローの足が地面から浮く。
裕司の身体がふわふわと光の中を浮遊している。
死の予感がする裕司。
目を閉じる裕司。
警笛。
遠くで鳴る車のクラクションを聞く裕司。
裕司の心の声「これが死の間際の葬送曲なのか・・・」
首をもたげたジローが光の中に吸い込まれていく。
円錐状に広がる光が下のほうから徐々に消えていく。
呪文のような文言を思いだす裕司。
”ワレハワレノミデハナイ。ワレワレガテヲトリアウトキ・・・。”
クラクションが大音量になり急ブレーキがかかる音。
宙に漂う裕司の左足首を何者かが掴む。
周囲を包む眩い光が一瞬にして消える。
暗い路の上に車のヘッドライトだけが光源として残る。
車道の真ん中に倒れている裕司とジロー。
意識はある裕司。
身体が動かせない裕司。
裕司の背後でドサッという音がする。
ジローのクウゥッと啼く声を聞く裕司。
首をそちら側に回すことができない裕司。
ようやく頭を持ちあげる裕司。
眩しいヘッドライトに目を伏せる裕司。
光に中に人影がある。
長身で細身の男性らしき影。
裕司を抱き上げる男の影。
眩しそうに男の顔を見あげて問う裕司。
裕司 「あなたは?」
ユアト 「僕はユアト。君は、椿谷裕司くんだね」