フリーソウルズ2
Scene.36
カットハウス
理髪店の椅子に掛けて話し始めるユアト。
整髪中である。
ユアト 「ゼーレ_セカンドインパクトでは、多重交通事故の映像を見ていただきした。ゼーレを持ったチェザルモが回避行動をとった例です。ではいったい誰がチェザルモだったのか? 全員ではありません。当事者の中のひとりです。正解発表はのちほど行うとして、たったひとりのチェザルモが、ゼーレを持たない多数の一般市民を巻きこむという、とんでもない事実をご理解していただけたでしょうか。おそらく交差点でチェザルモは死の恐怖に駆られた。その心理が影響して、チェザルモのゼーレが次から次へとトランスを試み、運転者たちの行動を束縛してしまった。それが事故の真相でしょう。チェザルモは、無意識にこのような事故を引き起こしました。それは、このチェザルモがまだ混乱期ギルスにある状態であったためと考えられます。
ちょっとしたパニックで大きな事件を引き起こす者がいたら、ギルスを疑っていいかもしれません。あ、ギルスって、ゼーレの3番目のステージね。モルガ、ヘブロ、ギルス、アテン、ジュノック。下からモルガ、ヘブロ、ギルス、アテン、ジュノックです。ちなみに幼少期の橋本さんは下から2番目のヘブロ。黒田ヒロトくんもギルスに近いヘブロです。ヘブロというのはゼーレがヒト(本人)の自我を飛び越えて表出している状態。本人が気づかずにおかしなことを言い続けていたらヘブロかも。3番目のギルスはゼーレと自我がぶつかりせめぎ合っている状態。変な言動をしているのが客観的に認識できているのに、コントロールできずに苦しむパターン。ギルスのすぐ上のステージはアテン。アテンは、ぶつかりせめぎ合う時期を過ぎ、本人とゼーレが融和した状態。アテンステージになると、個人差はあるけど、チェザルモ(ヒト)とゼーレは同じ目的のために企図された行動がとれるようになります。ただし完全に融和した行動がとれるようになるまでは、小さな小競り合いがあって、互いが互いを利用する感じで、とんでもないことを起こしたりするんだけどね。アテンの上のジュノックとは・・・。謎。視聴された方からご質問をいただきました。その通り、モルガ、ヘブロ、ギルス、アテン、ジュノックという5つのステージ名は、アシュロフ博士の”超存在論”には記載されていません。千ページのドイツ語の原書をよく読まれましたね。拍手です。5つのステージは、博士が一線を退いたのちに書き溜めた手記の中にあった分類です。
はい、ここで答え合わせ。多重事故当事者の中ででギルスステージのチェザルモと推測される者は?横断歩道を渡っていた男子高校生です。わかりましたよね、皆さん。手記の中でアシュロフ博士は、興味深い言葉を残しています。ヒトの生存活動とゼーレの”存在”活動は、重なる部分が多い。ゼーレが過去の記憶を蓄積し、それをヒトに授けることによって、我々人類は生命力の向上という恩恵を受けている。問題はジュノックだ,と。博士は、アテンステージのチェザルモには会ったことがあると手記に記しています。アテンですら、使われ方次第でヒトは恐ろしい能力を発揮すると。私、ユアトがユーチューブを始めた理由はただひとつ。ジュノックに会いたい。
以上、ゼーレ_サードインパクト。ユアトがお送りしました」
清潔なタオルでユアトの襟元を拭う理髪師。
胸元にかけられたエプロンを取り払うユアト。
ユアトに会釈する理髪師。
綺麗にカットされたユアト鹿毛色の髪をなびく。
カウベルを響かせ颯爽と理髪店から出ていくユアト。