フリーソウルズ2
Scene.22
実験データ
灌北大学超科研部室
ゆっちん 「(汗を拭きながら)待たせてごめん(入室する)」
重たそうなショルダーバッグを肩から提げているゆっちん。
カモ 「よー、お疲れ」
リョウ 「やっときたか」
部室でくつろぐカモとリョウに軽く手をあげて挨拶するゆっちん。
ゆっちん 「あれ、レンは?」
リョウ 「あいつ、バイトで遅れるってよ」
ゆっちん 「そうか・・・ちょうどよかったわ」
ショルダーバッグをおろし中からノートPCを出してテーブルの上に置くゆっちん。
ゆっちん 「グラフィックに落としこんだんやけど、画面が小さいから、ふたりで見て」
ゆっちんがキーボードを叩くとある画像が画面上に表示される。
画面は均等に4分割されたセルで構成されている。
左側ふたつが被験者A、右側ふたつが被験者Bとわかるタイトルがついている。
それぞれセルの上段には3本の波形があり下段には2本の折れ線グラフがある。
上段3本の波形は上から青、緑、赤、下段の折れ線グラフは黄色と黒に、各々色が振り分けられている。
ゆっちん 「左がAさん、右がBさん。で、上段はMEGの脳磁係数、下段が体温と拍動」
カモ 「MEGって、あれか?」
ゆっちん 「そう。脳磁図計測器。天根教授は松果体で起こる電磁場の変化をキャッチできる特別なMEGを作りはった」
リョウ 「ゆっちん、お前・・・」
ゆっちん 「ほんまは脳のモデリングでビジュアル化するのが一番なんやろうけど、僕にまだそのテクも時間もない。そやから馴染みのあるX軸Y軸のグラフに落としこんだ」
カモ 「大変だったな」
リョウ 「ご苦労さん」
ゆっちん 「見やすいように、時間を追って動くから」
ディスプレイに触れるゆっちん。
分割画面上段の波形と下段のグラフが左から右へ動きだす。
A画面B画面ともに右下にそれぞれ100分の1秒単位のタイマーが表示されている。
ゆっちん 「コンマ1秒単位で変化を数値化してある」
カモ 「上段の3本の意味は?」
ゆっちん 「測定する磁場の違いだろうけど、あんまりよくわからんかった」
リョウ 「AさんとBさん、ずいぶん波形が違うな、3本とも」
ゆっちん 「そやろ。まあ普通そうなると思う。赤の他人やから」
リョウ 「そんなもんか・・・」
ゆっちん 「じっくり見てや。13秒あたりで脳波が乱れる。それから17秒あたりでそれは起こる・・・」
カモ 「どれどれ?」
ゆっちん 「左側Aさんの波形」
穏やかに波打つAさんの波形を凝視するカモとリョウ。
カモ 「あれっ!(驚いて叫ぶ)一番上の青いやつがグーンと撥ねた。まだ12.95秒」
リョウ 「13秒」
カモ 「で、だんだんなだらかになって・・・」
リョウ 「消えた?」
ゆっちん 「いや、変化がゼロになったことを示してるだけ」
カモ 「15秒」
リョウ 「16秒」
カモ 「17秒」
緑色と赤色の波形はなめらかな連続曲線を描いていたが赤い波形が突然乱れる。
一瞬小刻みな波形になったかと思うと上の波形にぶつかるくらい突起する赤い波形。
再び元のなめらかな波形に戻る赤い波形。
リョウ 「23秒」
カモ 「24秒」
リョウ 「25秒、26秒」
ゼロになっていた青い波形も元の安定した波形に戻る
すべての脳波が最初の状態に戻る。
ゆっちん 「カモさん、気づいた?」
カモ 「えっ?」
リョウ 「見たよ、波形が揺れるの」
ゆっちん 「それだけじゃなくて、Aさんの拍動」
動画を0秒に戻すゆっちん。
ゆっちん 「13.5秒のところで拍動停まってるから」
カモ 「停まるって、どういうこと?」
動画が再生される。
00.00から13.52秒まで、拍動を示すグラフは規則的な形状を保っている。
しかし13.53秒のところで波形は急にフラットになる。
カモ 「14秒、15秒・・・」
リョウ 「心臓が停まってる・・・?」
絶句するリョウ。
時計が23秒を刻んだところで再び拍動のグラフが動き始める。
ふっと溜息を吐くリョウ。
リョウ 「心臓が停まるってことは死ぬということですよね、カモさん」
カモ 「仮死状態にしたっていうことか・・・」
ゆっちん 「カモさん、リョウも今度は注意を右側Bさんにも向けてもう一度見てみて」
再度動画を00.00に戻し再生するゆっちん。
ゆっちん 「右側のBさんは心臓停まってないよね」
13秒以降も被験者Bの拍動は規則性を保っている。
ゆっちん 「青い脳波の乱れもない。ただ17.08秒のところ」
分割画面双方に流れるように動く波形をじっと見つめるカモとリョウ。
カモ 「(リョウとともに)あっ!(唾を飲む)」
素早く動画を停めるゆっちん。
カモ 「同じか・・・?」
ゆっちん 「少し戻すよ」
タッチパッドを操ってタイマーが17.08を示す画像に戻すゆっちん。
100分の1秒単位でスロー再生する。
ゆっちん 「赤色の波形の乱れがAさんBさんともにあらわれる」
カモ 「これは・・・」
リョウ 「AさんとBさんの波形が・・・」
カモ 「約0.1秒同じ・・・」
ゆっちん 「そう、17.08から17.16までの間。100分の8秒間、AさんとBさんの赤い波形がまったく同じ形に、つまり同期している」
カモ 「そのあとはまたふたり、元の不規則な波形に戻っている」
リョウ 「その間、Aさんは心停止している・・・」
カモ 「どういうことだ?」
ノートPCの画面を見つめて考えを巡らせるカモ。
ゆっちん 「同期してトランスする。きっとそれを証明したかったんやろうと・・・」
リョウ 「これはひどい・・・。ひどすぎる・・・(壁に向かって呟く)」
振りむくなり憤った顔をゆっちんに向けるリョウ。
リョウ 「心臓を10秒間停めて、もしそのまま戻らなかったら、Aさんは死んでた」
ゆっちん 「うん、僕もそう思う」
リョウ 「人が死ぬ危険を冒してまでやる実験なのか!」
カモ 「リョウ、落ち着け。ゆっちんに怒ったってしかたない」
ゆっちんのくしゃっとなった顔を見て我に帰るリョウ。
リョウ 「すまん(頭を下げてそのままうなだれる)」
吐息をついてリョウの肩に手を置くカモ。
カモ 「ありがとう、ゆっちん」
ゆっちん 「アニメ用のソフトなんで、苦労したっす」
カモ 「これで佐伯先輩が何を、なぜ隠していたのかよくわかった」
ゆっちん 「大学側が実験を許可しなかった理由も」
リズミカルなノックをしてレンが顔を覗かせる。
レン 「やぁ、みんなー! 見た?」
部室内にただならぬ空気が流れているのを感じとるレン。
お構いなく自分の定位置である破れたソファに腰を落ちつけるレン。
レン 「見てないの?」
頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべるカモたち。
カモ 「何を?」
レン 「えーっ、ライン送ったのに」
リョウ 「そうか、ごめん。今、ゆっちんが作ったの見てた」
レン 「えっ、ゆっちん、またロリエロアニメ?」