架空植物園2
今度は中年の男が見えた。大きなレンズのついたカメラと三脚。いつもじゃまだなあと思ってしまう人種だ。芸術写真を撮っているんだという思いが強いのか、他人が見えていない。あれこれカメラを操作し、たまにシャッターを押してもその場所を動こうとしないことが多い。
私は男の撮ろうとしている被写体を見る。座禅草だ。咲いているといってもカラフルな花びらがあるわけではなく、仏像の光背のような仏炎苞につつまれ、つぶつぶのついた卵のような花が中にある。この花の形を、座禅を組む僧にたとえたものらしい。
私のカメラはコンパクトデジカメなので、本当は近づいて撮りたいのだが、男は場所を動かず何も言わないでファインダーを覗いている。男が撮っている場所以外では中の花が写せない。仕方なく男の後ろから望遠にズームして撮った。これが目的ではなかったので
そこを後にした。
この自然観察園の奥の方にそれはある筈だった。花は夏から秋に渡って咲き、冬に実をつける。果物のような実ではないので、鳥に食べられたりして無くなるということはない。だんだん近付いていくとまた先客がいた。行く先々に一人写真を撮っているという偶然も面白いと思った。そう思ったのは、その先客が若い女性ということと関連があるかもしれない。