小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

⑦冷酷な夕焼けに溶かされて

INDEX|9ページ/9ページ|

前のページ
 

相変わらず仲の良い二人を見て、私の心は温かくなりながら一抹の寂しさも感じる。

私も、ミシェル様に愛されたい。

カレン王ほどの溺愛はなくとも、せめて傍にいることだけでも許してもらいたい。

ミシェル様とカレン王から目を逸らすと、私はマル様の後についてテントへ入った。

そこは小さいながらも浴槽が設けられており、すでに温かな湯がはられている。

「まずは、ゆっくりと温まってください。」

言いながら、マル様は着替えとタオルを用意してくれた。

「あがられる頃を見計らって、また来ます。」

テントを出て行くマル様の背に、私は慌てて声をかける。

「マル様!今回もまたごめ」

「いいんですよ。」

私の言葉を遮って、マル様がやわらかく微笑んだ。

「あなたの言う通りだと、我等も反省しました。
もう一度、のちほど皆で練り直しましょう。」

そう言い終わると同時に幕が閉められ、私はひとりになる。

私はミシェル様とルイーズに掛けられたマントを畳むと、ぼろぼろになった服を見下ろした。

『カナタ王子は、いつでも覇王を葬れる。』

(…否定しなかった…。)

カナタ王子の一言で騎士達の目の色が変わり、操られた姿を思い出した瞬間、ぞくりと寒気がくる。

(もし、星一族が覇権をほしがったら…ミシェル様達はどうするのかしら…。)

到底、勝てると思えない。

もしかして、これからの本当の敵は、星一族なのではないだろうか。

今は味方の彼らを、どこまで信用して良いのか…。

(だめだめ!)

私は頭を振ると、服を脱ぎ捨て湯に浸かる。

(人の心は鏡と言うじゃない。)

(私が抱いた疑念は、必ずあちらにも伝わる。)

温かな湯に、ホッとため息をつきながら自分を戒めた。

その後、リク様の手当てを受け、宿泊テントへ案内される。

(けっこう遠い…。)

「ここです。」

思ったよりも遠くまで案内され戸惑う私に、案内役のフィンがふり返った。

本営からずいぶん離れたところにポツンとある黒幕のテントが私の寝床らしく、フィンが幕を開ける。

「ニコラ!」

入った瞬間、逞しい腕に抱きしめられた。

「ルイーズ!?」

驚く私の耳に、声変わりしたてのあどけない声が聞こえる。

「じゃ、僕はこれで。」

「っちょ…ちょっと、フィン!?」

(どういうこと!?)

ルイーズの腕の中で必死にもがく私に、フィンがニヤリと意味深な笑顔を向けた。

「まわりに声漏れを気にしなくて良いように離れたとこに設営したんで、気兼ねなくご自由にご存分にどうぞ~。」

(声漏れって…!)

「なんでルイーズと…!」

ようやくルイーズの腕の中から脱出して、一歩距離をとる。

すると、フィンとルイーズが意外そうな顔で私を見た。

「だって、夫婦だろう?」

「新婚さんでしょ?」

ルイーズとフィンの言葉に、私は更に後ずさる。

「え!?だってこれは偽装…。」

「いえ、王公認の正式な婚姻ですよ。」

思いがけない言葉に、フィンを見た。

「あなた方は婚姻しましたしルイーズ殿は契約の満期を迎えたので、もうルーチェからも離れ、自由にされて良いとのことです。」

「…ミシェル様が?」

「ええ。ミシェル様が。」

しっかりと頷くフィンに、私は呆然とする。

「自由にしていいって…ルイーズはそれでいいの?」

(あんなにミシェル様を慕っていたのに…。)

戸惑いながらルイーズを見上げると、日に焼けた精悍な顔が迷いなく頷いた。

「ああ。
ミシェル様にはもう、星一族という心強い味方が傍にいるからな。
私がいなくても安心だろう。」

「そんな…どこまで信用できるかわからな…っ!」

思わず言いかけた言葉を飲み込んだ私にフィンが一瞬複雑そうに目を伏せたけれど、すぐにまっすぐ私を見つめる。

「明日の昼頃に、デューから迎えが来ます。」

「…デューに帰れってこと!?」

掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄る私に怯むことなく頷くと、フィンは懐から書簡を取り出した。

「『各計略を全て妨害してきたデュー王女ニコラは、今後も我らへ多大な損害を与える恐れがある為、デュー王ヘリオスへ返還する。
又、ルーチェ王の権限により、デュー国もヘリオス王へ返還する。』だそうです。」

読み上げた書簡を私へぽいっと放ると、フィンは身を翻す。

「いや…そんなの嫌!!」

そう叫んだ時には、フィンの姿はもうなかった。

頭では、わかっている。

今回のような目に遭わせないように私を遠ざけ、守ろうとしてくれていることはわかっている。

でも、それは私の願いではなかった。

「共に闘おう、傍にいろ、って言ってほしかった…。」

私の出生の秘密も、本営で聞くと言っていたのに…。

「もう、デューに戻っても私は…。」

「ニコラ!」

私は気づけばテントを飛び出し、日が落ち始めた森の中を駆け抜けた。

(つづく)