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⑦冷酷な夕焼けに溶かされて

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ミシェルとミシェル


「あなたは、誰ですか?」

ふるえる声で訊ねてみても、私をジッと見つめる夕焼け色の瞳からは何の答えも読み取れない。

「ミシェル様ではないのでしょ…っ!」

無言の彼に詰め寄った瞬間、顎を容赦ない力で鷲掴みにされた。

「ばーか。俺が『ミシェル』だよ。」

冷酷な光をたたえるその瞳はまばたきもせず、私から視線を外すこともない。

ただ、顎を掴む手にはギリギリと力がこめられていき、骨が軋む音が頭の奥に響き出した。

「ーーーーーっっ!!」

歯を食いしばって堪えようとするけれど、そこへ猿ぐつわを噛ませられる。

鉄製の猿ぐつわは、上下がギザギザに切り込まれており、口を動かそうとするとその尖った先端が食い込み皮膚を切り裂くようにできていた。

ガチャリと頭に固定され、逃れようとした腕は捻り上げられる。

「ぐっっ!!」

瞬時に蹴り上げた足でなんとか一撃を食らわせたけれども、すぐに抑え込まれ鎖をつけられた。

「…さすが『ヘリオス』だな。」

僅かに息を乱しながら、彼は私の両手両足に枷をつけ、首にも鉄の首輪をはめる。

「来い。」

鎖をぐいっと乱暴に牽かれれば、立ち上がって歩かざるを得ない。

「にゃー…。」

そこへ、低い唸り声をあげながら、ペーシュが現れた。

「『影』を連れてこい。」

彼の命令にペーシュは小さく声を上げると、素早く部屋を出て行く。

(『影』?)

そう思ってよそ見をした瞬間、乱暴に引っ張られ、強かに壁で背中を打った。

「よそ見するとは、ずいぶん余裕だな。」

言いながら、鎖を上に引っ張り上げられる。

「っうー!!」

抵抗しようともがくと、その動きを利用されて壁の金具に鎖を繋がれた。

「はぁ…ほんと、手に負えないな。」

彼は額の汗を拭いながら、私から離れる。

「安心しろ。
おまえをヤるほど、女に不自由していない。
ただ、これが何か聞きたいだけだ。」

壁に張り付けられた私の近くにあるチェストを開けると、彼は小瓶をひとつ取り出した。

分厚い硝子の、八角形の小瓶。

これは、ミシェル様がマル様から献上された、星一族の秘薬…。

『一滴で、人一人暗殺できる毒薬』

無味無臭で、検死しても検出されない毒物を使っており、星一族の頭領にしか精製できない、とあの時リク様が教えてくれた、あの薬…。

「この形の容器は、見たことがない。」

(っ!)

独特な形の小瓶だから、覚えていないはずがない。

私ですら、ひとめ見れば星一族の同盟の証だとわかるのに。

これを知らないということは、目の前のこの人は、やはり別人…。

「これの中身は何だ?」

彼は小瓶の中の液体を振りながら、私を斜めに見る。

(別人ならば、きっと教えてはいけない…。)

私は、固定されて動かない首を、動く範囲で左右にふった。

ガシャンガシャンと鎖の音が、静かな室内に響く。

そんな私を、彼は心の奥底まで覗き込むようにジッと見つめてきた。

私は動揺を悟られないよう、必死でその夕焼け色の瞳を見返す。

「おまえ、本当は知っているだろう?」

彼はギラリと瞳を光らせ、鋭く射貫くように尚も見つめてきた。

私は再度、首を左右にふる。

けれど、それが通用しないことくらいわかっていた。

「…。」

案の定、彼は目を眇めると、その小瓶の蓋を開ける。

「知らないと言い張るのならば、飲めるな。」

「っ!」

小瓶をぐいっと口元に押し付けられ、私は思わず顔を背けた。

けれど、鎖と猿ぐつわで固定された顔はほとんど動かせない。

「やはり知っているだろう!」

彼が私の顎を捕らえ、小瓶を傾けたその時。

「にゃーおう。」

ペーシュが低い声をあげながら戻ってきた。

「…呼んできたか。」

彼は横目でペーシュを見ると、私の顎を捕らえたまま邪悪な笑みを浮かべる。

「おまえの、お待ちかねの男だ。」

そう言いながら、私の視線を導くように、一瞬うしろをチラリと見た。

それを追うように彼の肩越しに視線を移した瞬間、鼓動がどくんと跳ね上がる。

なんと、そこにはもうひとり、ミシェル様が立っていたのだ。

「え!?」

同じ顔がふたつ、目の前に並ぶ。

けれど、ペーシュが連れてきた彼は顔中あざだらけで頬は痩け、表情にも覇気がない。

何も映していないような夕焼け色の瞳が、ぼんやりとこちらを見つめている。

いや、もしかしたら見えていないのではないか。

そう感じるほど、夕焼け色の瞳は焦点が合っていなかった。

「久しぶりに寵姫に会えて、どんな気分だ?」

からかうように、嘲笑うように声をかけるけれど、傷だらけの彼は無表情のままだ。

「ははっそうだった。わからないのだったな。」

私の顎を捕らえていた彼は口の端を歪めながら笑うと、私から離れる。

そして、おもむろに私の頭を掴むと、ガチャリと解錠の音がし、猿ぐつわが外された。

「名を呼んでやれ。」

(名を…?)

何と呼べばいいのだろうか?

私は猿ぐつわを片付ける彼と、傷だらけの彼を交互に見る。

『ばーか、俺がミシェルだよ。』

彼は確かに、そう言った。

私を捕らえた彼がミシェル様なら、この傷だらけの彼は誰なのだろう。

どう呼べば良いか戸惑っていると、私を捕らえた彼が苛立ったように私の顎を掴む。

「俺に抱きついてきた時みたいに呼べよ!」

その剣幕に、なんとなく、『ミシェル様』と呼んではいけない気がした。

というより、声を上げてはいけない気がする。

「…こ…の…女!」

一気に、夕焼け色の瞳が燃え上がった。

ばしっと鈍い音と共に、頬に鋭い痛みが走り、ガシャンッと鎖の音が室内に響く。

それから立て続けに頬を殴られるけれど、私は烈火のごとく燃え上がるその瞳から視線を逸らさず見つめ返した。

「…そうか…暴力沙汰には慣れているよな…。」

蔑むように私を見下ろした彼は、私の服に手を掛ける。

そして、大きな手を差し込んできた。

「っ!」

思わずあげそうになる悲鳴を、ぐっとのみ込む。

そんな私を冷酷な目付きで一瞥すると、彼は傷だらけの彼をふり返った。

「今から、おまえの大事な『ルーナ』を犯すぞ。」

「…。」

挑発するように言うけれど、傷だらけの彼は全く無反応だ。

彼は忌々しげに舌打ちをすると、その端正な顔を私にぐっと近づけた。

「ほら、あいつに助けを求めろよ。
このままじゃ、愛する男の前で犯されるぞ?」

そう言いながら、濡れた唇が首筋を這い、手と唇で私の体を愛撫していく。

「嬌声を聞かせてやれよ。」

その言葉に、私は傷だらけの彼を見た。

けれど、どれだけ見つめてもその瞳と視線が絡むことなく、どこか遠くをぼんやりと見ている。

(やはり、目が見えていない…っ。)

私の声を彼が聞くことで何が起こるのかわからないけれど、なんとなくそれが彼にとって不利なことになるような気がしてならない。

そう思えば、どんな目に遭ったとしても絶対に声を上げたくないと思った。

彼の手が、容赦なく私の熱を引き出そうと蠢く。

けれど、やはりそれは恐怖と嫌悪しかわきおこさず、私の体は強く強張ったままだ。

「脚を開けっ…!」