複雑な心境
「ところで、クコピロン様」
装置から出た僕に、担当者が歩み寄る。
「お体については、完全なクローンコピーですので 特に支障は ないのですが──」
「え?!」
「お客様が ご利用のコースですと…脳情報に少々問題が」
「─」
「直近にバックアップされたのが、先週の金曜日で ございますから…」
「ああ」
どうやら僕が オリジナルから引き継ぐべき記憶が、3日分程 失われてしまったらしい。
まあ それぐらいは許容するしかない。
クラウドシステムを使い、脳情報を随時バックアップ出来るサービス使用していたら、避けられた事態ではある。
が、悲しいかな僕には そんな財力はない。
最寄の施設に出向いて、週1回のバックアップを取るエコノミーコースを利用するのが 精々なのだ。
だから、多少の記憶情報が欠落は、許容するしかない。
引き継げる脳情報は完全ではないにしても、自分の存在がこの世界から消えてしまう、最悪な事態だけは 避けられたのだから。
「まあ…仕方ないですよね」
「ご理解頂け 何よりです」
担当者は、書類を差し出した。
「では この確認書に、サインを頂けますでしょうか」