左端から見れば全部右寄り
14. 流行語大賞2019選考室にて
「みんな集まったね? じゃ、選考委員会を始めようか、30候補のリストは手元に行ってる?」
「うん、来てる」
「で、ベスト10に絞るんだけど、どれが良いと思う?」
「やっぱ『れいわ旋風』は選びたいよね」
「俺もそう思う」
「でもさ、これ選んじゃうと『N国は?』って言われそうだよね」
「言われる、絶対に言われる、そもそもベスト30にも入れなかっただけで言われてるもん」
「本当はこれが大賞なんだけどねぇ……」
「一応外しとこうよ、アブないもん」
「だね……残念だけど……他には?」
「『#KuToo』は?」
「良いと思う、流行ってないけど」
「去年『#MeToo』を選べなかったもんなぁ、『#KuToo』なら直接的じゃないし」
「『にくいしくつう』をちょっと連想させるもんね」
「じゃひとつ決まりね」
「『闇営業』入れとく?」
「そうだね、芸能関係は他にないしさ」
「マスコミの協力で反社会的勢力のパーティでの営業だったってあたりは浸透してないしさ」
「だね、マスコミに感謝を込めて入れとこうか」
「『計画運休』は?」
「そう、それ、野党議員の『計画連休』を隠す意味でも入れとこうよ」
「木を隠すなら森の中って言うもんね……これで四つね、あとは?」
「『低減税率』なんかどう? 実際に低減税率なんかどうでもいいけど消費税が上がったって印象を残せるからさ」
「決まりね」
「『〇〇ペイ』は? 貨幣価値のグローバル化っぽいし」
「お金って感じしないもんね、ただの数字みたいに見えるところが良いよね、一人でも多くの日本人が自己破産するようにって願いも込めて入れとこうよ」
「これで六つか、ここらで一応『令和』も入れとかないと拙くない?」
「そうだねぇ……天皇制と結びついて好きじゃないんだけど、話題にはなったもんね、中国の古典から採らなかったってのも気に入らないけどさ」
「中国も『習』とか『胡』とか付ければ良いのにね」
「ホントそれ……社会風俗関係では?」
「『タピる』かな……」
「良いと思うよ、日本人らしく軽薄な感じでさ」
「じゃ七つ目のトップ10ってことで」
「『免許返納』は?」
「そうだねぇ……逆走とか話題になったし、昨日もあったでしょ?」
「左翼陣営以外一億総痴呆化って願いも込めて八つ目に入れとこう」
「あとは?」
「まあ、当たり障りのない所でスポーツ関係とか?」
「そうだね『スマイルシンデレラ』はまあ、話題になったよね」
「本当は日本人アスリートが活躍するのって嫌なんだけどさ、ゴルフ人口多いもんね」
「あと一つか……ラグビー関係も入れとかないと煩くない?」
「『四年に一度じゃない、一生に一度だ』とか?
「なんかさ、それ東京オリンピックを思い起こさせない?」
「そうだね、日本でオリンピックなんて本当はやって欲しくないもんね」
「だったら『One Team』とかは?」
「日本チームの団結を促す言葉でしょ? それ」
「でもさ、代表にはいろんな国の選手がいるよ」
「なるほど、多国籍移民国家を象徴するキーワードに仕立て上げれば良いんだ」
「そうそう、それ、でも普通はそうは取らないよね」
「だから選考理由をくっつければいいんじゃない?」
「そうか、それもそうだね」
「アベガーは?」
「ちゃんと入れとこうよ、安倍総理に伝わってるだろうか? とかくっつけて」
「いいね、アベは気づくまいが、俺たちはわかってるよってアピールにもなるし」
「これで10個出揃ったね、で、この中で大賞は?」
「う~ん……決定打がないなぁ」
「じゃぁさ、しっかり選考理由を付けた上で『One Team』にしない? いつかの『集団的自衛権+だめよだめだめ~』みたいにさ、政治的思想と無関係に見せて実はしっかり入ってるみたいな」
「オーケー、それじゃそういうことで」
「この委員会ってさ、なんかテキトーっぽくない?」
「いいんだよ、どうせ愚民は来年まで覚えてないし」
「そうそう、だって本当はこれって『選ばれたとたんに誰も使わなくなる語大賞』なんだしね」
作品名:左端から見れば全部右寄り 作家名:ST