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今よりも一つ上の高みへ……(第二部)

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 雅美はソロホームラン一本を浴びたものの、8回まで被安打4、四死球なしの好投、しかし相手のピッチャーもさすがにエース、毎回のようにランナーを許すものの、失点は初回に広田に打たれたタイムリーの1点だけ、1-1の同点で8回裏を迎えた。
 先頭打者は8番の松田、打力にはほとんど期待されていなかった松田だが、このシリーズでは7打数3安打、打数は少ないものの.428と結果を残していて、この試合でも1本良い当たりのヒットを打っている。
 監督は松田に代打を送るかどうか悩んだ、雅美は8回までと決めていたので松田を下げることに問題はない、当たっていると言っても本来あまり期待をかけるべきバッターではないのだ。
 だが、監督は松田をそのまま打席に送った。
 今日のリードは冴えている、そんな時、キャッチャーは相手の配球の読みもズバリと当たるものだ、そこに賭けてみようと思ったのだ。
 2-2からの5球目、相手エースのストレートが高めに入った。
(来た!)
 松田が待っていたの正に高めのストレート、前の回あたりからボールが高めに浮き始めたのを松田は見逃していなかった、おそらくは握力が落ちてきている、ストレートは高めに浮く可能性が高いし、長打力に欠ける自分に対してはストレートで勝負して来るだろうと読んでいたのだ。
 カキーン!
 松田のバットが快音を響かせ、打球は左中間を破った。
 二塁ベースに立った松田がこぶしを突き上げると、スタンドが大きく沸いた。
 そして監督がベンチから飛び出すと、ネクストバッタ―サークルにいた雅美の肩を叩いた。
「お疲れさん良く投げてくれた、代打だ」
 このチャンスに1点を挙げて林で逃げ切る、監督はそうプランを立てた、何故ならシーガルズにはとっておきの代打が残っていたのだ。
「バッター、石川に代わりまして武内」
 アナウンスが響くとスタンドは再び沸いた。
 このシリーズ、武田は.500、ホームラン2、打点6と当たっている
 第1戦こそベテランの田口が先発したが、途中出場のその試合でホームランを放ち、2戦目からは武内が先発マスクをかぶっていたのだ。
 だが、今日は雅美が先発、松田が先発マスクをかぶり、そのままここまでベンチを温めていた。
 ミリオンズもすかさずクローザーをマウンドに送り防戦体制を作る。
 そしてカウント2-2からの5球目、内角高めのストレートを武内のバットが捉えた。
 ガン!
 決して会心の当たりではなかった、だが好調の武内のスイングが球威に勝った。
 打球はショートの頭を超えて左中間に落ちた、間を抜けるほどの勢いはなかったが飛んだコースが良く、センターが回り込む等にボールを掴んだ。
 打った瞬間ヒットコースとわかる当たりだったので、センターが送球態勢に入った時には二塁ランナーの松田は既に三塁を大きく回っていた。
 センターは諦めてボールをセカンドに送り、松田がホームベースを駆け抜けた。
 シーガルズ1点勝ち越し。
 球場全体が大きな歓声に包まれた。

「やったね!」
 シーガルズのベンチでは雅美が松田に抱き着いていた。
 女性同士ではごく自然にやっていたので、興奮した雅美は相手が男性だと言うことも忘れていたのだ。
「お、おい」
 そう言われて気づき一旦は離れたが、雅美の歓喜は止まらない、改めて松田に抱き着く姿はスコアボードに大きく映し出されていて、スタンドはもう一度沸いた。

 9回の裏、シーガルズのマウンドには当然林が立っていた。
 第5戦にはリリーフに失敗したものの、移動日、第6戦と休養できた林にもボールの切れが戻っていた。
 そして100キロのナックルを駆使する雅美から最速158キロの林へのリレー、打ちにくい事この上ない。
 林は簡単に2アウトを取った。
 しかし、さすがにミリオンズが誇るクリーンアップの一角、三番バッターには二塁打を浴びてしまった。
 そして迎えるのはリーグを代表するバッターの一人と言っても過言ではない4番。
 松田は慎重にサインを出した。
 1球目は外角低めへのスライダーを見逃されてボール。 1-0。
 2球目も同じところへスライダー、今度は振って来て空振り。 1-1。
 ストレートを待っていると読んだ松田はチェンジアップのサインを出し真ん中低目へ、2個目の空振りを取って1-2.
 そして、外角のスライダーを決め球にすると決めて、4球目は内角高めへの釣り球を要求した。
 だが、その配球は相手も読んでいた。
 ガツン!
 要求通りの釣り球だったが、わずかに低かった、それを見逃さずに4番が強振すると、どん詰まりの当たりではあったが、ファースト後方へのハーフライナー。
 ツーアウトだっただけにランナーはスタートを切っている、ファースト広田が懸命にバックし、ライトが突っ込んでくる、だが当たりが弱いだけにライトは間に合わない、落ちればヒット、セカンドランナーは既に三塁を回っている、球場内の全ての視線が広田に注がれ、その広田はダイビングキャッチを試みて倒れ込んだ、広田を追った塁審が膝をつくようにしてボールを凝視する。
 どっちだ……。
 起き上がった広田が高く掲げたファーストミットには白球が収められていた、そしてそれを確認するように一塁塁審の右手が上がった。
 アウト!
 そしてそのジェスチャーを確認した主審も右手を高く掲げた。
「ゲームセット!」
 それぞれの守備位置で選手たちがグラブを放り上げてマウンドめがけて走り出し、一塁側ベンチからも選手たちが飛び出して行く、もちろんその中には雅美の姿も。
 あまり足は速くない上にベンチ内で跳び上がっていたために出遅れた雅美は、選手たちが作った輪の一番外側でぴょんぴょん跳ねている、広田は雅美の背後から近づいてポンと肩を叩いた。
「おめでとう、これはお前が持ってろ」
 広田が雅美に差し出したのはウイニングボールだった。