つる女の恩返し(ライダー!シリーズ番外編)
おつるは改造人間である。
彼女を改造した『衝撃団』は日本を我が物にしようとする悪の秘密結社。
衝撃団から逃亡したおつるは、改造人間にされた悲しみを胸に、人間の自由のために闘い続けているのだ……。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「……私はあの時助けて頂いた鶴でございます、ずっとあなた様方の娘で居とうございました、でも正体を知られたからにはもうここに置いて頂くわけにはまいりません」
「お……おつるや……」
「お別れでございます……」
「おつるや、わしが悪かった、もう決して機織りを覗いたりはせん、後生だからここにいておくれ」
「いいえ、そういうわけには行かないのです……なごり惜しゅうございますが、いつまでもお達者でいてくださいまし……」
バサバサバサ……。
「おつるや~、戻って来ておくれ、おつるや~……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
あれから一年の月日が流れた。
だが、おつるの胸の中には今でも優しかった老夫婦……養父と養母の姿が、声がくっきりと刻み込まれている。
そしてそれを思い出すたびにおつるの胸は温かいもので満たされる。
短い間だったが、養父母と暮らした日々は幸せだった。
なぜなら、おつるを本当の娘として、本当の人間として扱ってくれたから……。
怪人『つる女』としてではなく……。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
あの日の数日前のことだ。
養父母と共に静かに暮らしていた家に、突然衝撃団の戦闘員が数名、姿を現した。
「お前たち! どうしてここがわかった?」
「爺ぃが町で売った織物、あれは貴様にしか織れないものだ、そこから辿ったのさ、ここを探し当てるのはたいそう骨だったがな」
「しまった……あの織物か……」
「思った通りだったぜ、逃亡中の怪人つる女、貴様の隠れ家はわかった、首領様に報告だ、震えて待っていろ」
「そうはさせないよ、あの夫婦は本当に心の優しい良い人たちなんだ、指一本触れさせやしない……変身!」
美しい娘、おつるは見る見るうちに改造人間つる女に変身した。
鶴の頭部に長い首、美しいラインを描いていた体はそのまま真っ白な羽毛で覆われている、二本の腕はそのまま残り、細く長い脚はしなやかな筋肉に覆われ強靭なキック力を持つことを物語っている、そして白と黒のコントラストも美しい大きな翼。
「イーッ!」
戦闘員たちも着物を脱ぎ去り、全身黒づくめの姿に変わる。
「つっつき攻撃!」
「ぎゃっ!」
「鶴脚廻し蹴り!」
「ぐえっ!」
「羽ばたき突風!」
「わぁっ!」
怪人と戦闘員では実力に大きな差がある、つる女はたちまち戦闘員たちを蹴散らした。
命からがら逃げ出す戦闘員たち、しかし大きな翼で飛ぶことができるつる女にとって、普通の人間である戦闘員を追い詰めることなどた易い。
「命までは取りたくはなかったよ……でもあの人たちに危害が及ぶのを見過ごすわけには行かないんだよ、覚悟おし! つる回転後ろ廻し蹴り!」
「ギャ~!」
長い脚で戦闘員たちを薙ぎ払うと、彼らは谷底へと落ちて行った。
「南無……」
戦闘員とは言え、人を殺めるのは心が痛む、つる女は人間の姿に変わると谷底に向けて合掌した。
その晩、一晩かけてじっくりと考えた……。
戦闘員は織物から辿ってここを探し当てたと言っていた、たまたま養父母は留守だったから良かったものの、自分がここにいてはいつ衝撃団の魔の手が伸びないとも限らない……。
束の間の幸せで平穏な日々だったが、しょせん自分は改造人間、人並みの幸せなど望めるものではない……だがそれでも養父母に自分の正体が怪人つる女だと知られたくはない。
そこで、おつるは一芝居打ち、鶴の姿に変身すると養父母の元から飛び去ったのだ……。
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
だが、この一年間、鶴の姿で上空から養父母の家を見守り続けて来た、再び衝撃団がこの家を見つけ出さないとも限らない、あの善良な人たちはなんとか自分が守らねば……。
「あっ……あれは……」
養父母の家の前に怪しい人影を見つけた、衝撃団幹部、死神師匠の姿だ、そして自分と同じ鳥型の改造人間も……。
(あれは……サギ男……)
おつるは近くの田んぼに舞い降り、どこにでも居る鶴を装って監視を続けた。
死神が一旦姿を隠し、サギ男は人間の姿に変身すると表から声を掛けた。
「ごめんなさいよ~、どなたかいらっしゃるだかね」
「はいはい、何でしょうな……」
引き戸を開けて出て来たのは懐かしい養父母……。
(ああ……おとっつぁん……おっかさん……)
鶴の胸に温かいものが蘇る。
「おらぁ、町からやってきたんだども、金に困って壺を売って歩いとるんだが、ひとつ買ってはもらえんかね」
「おや、まあ、それはお気の毒に……じゃがこの通りじじばばの二人暮らし、とてもそんな高そうな壺は買えませんでな」
「まあ、そう言わずに、お安くしておきますで」
(あっ……あの壺は……)
唐(より伝わるあやかしの壺、中を覗き込むとたちまち吸い込まれて囚われてしまう。
(さては、あたしをおびき出すための人質に……?)
「ほれ、叩くと澄んだ音がしますじゃろう? この通りひびなど入っとりゃせん、中も御覧なされ、綺麗なもんでな」
サギ男は言葉巧みに壺の中を覗かせようとしている、大事な養父母が危ない!
おつるは空高く飛び上がると、戦闘力の高いつる女の姿に変身しながら壺めがけて急降下して行った。
「つる跳び蹴り!」
ガシャーン! 粉々に割れた壺は煙となって空中へと消えて行く。
「気を付けて! こいつは怪人サギ男よ!」
「そ、その声は……もしや、おつるなのかい?」
その言葉を聞いて、つる女はしばし目を閉じた……この姿は見られたくなかった、この姿でいる時におつるだと悟られたくなかった……でも、でも……こんな姿でも声だけで自分をおつるだとわかってくれる……。
おつる、いや、つる女はかッと目を見開いた、今はこの人たちを守ることが大事、それこそが今私がすべきこと!
「そうよ、私の正体は怪人つる女、おとっつぁんが罠にかかった鶴を助けてあげるのを偶然見かけてこんな優しい人たちと暮らしたい、怪人つる女なんかじゃなくて、人間の娘、おつるとして暮らせたらどんなに幸せだろうと思ってあなたたちに近づいたの、騙したりしてごめんなさい、でも、あたしは……あたしは本当にあなたたちが好き、あなたたちを守りたい!」
「おつる、おつる、戻ってきてくれたんだね、どんな姿だって構やしない、お前はあたしたちの娘だよ」
「ありがとう……おとっつぁん、おっかさんは必ずあたしが守ってみせるから」
その時、死神師匠も藪から姿を現した。
「わはははは、人質を取っておびき出す手間が省けたわい」
「死神! この人たちに手を出すことはあたしが許さないよ!」
「ん? お前さえ見つけられればそんなじじばばなぞどうでも良い……じゃが、生かしておかねばならん義理もないわ」
作品名:つる女の恩返し(ライダー!シリーズ番外編) 作家名:ST