勇者ポイポイの冒険
何故こんなにもやる気を無くしたのかというと、まぁ些細な事だ。
いくつか説明しよう。
まず俺が勇者なのにも関わらずコンビニでレジ待ちの人が大勢いるのに何故片方のレジ開けないのか。明らかにドア向こうでゲラゲラ楽しそうに会話しているアルバイターがいるのに、完全無視。やっと俺の番になる頃には、1人でレジうってきた正直者アルバイターさんがヘロヘロになりながらも優しく接客をする。惚れるぞ俺は。ナポリタン温めるぞコラ。
こういった事の積み重ねで、ぶっちゃけ冒険するのが億劫になってきたのだ。
まだあるぞ?
街でベンチに腰掛けてiPhone片手に暇潰ししていた時の事、そこは物凄く広い大通りで、しかも平日だったせいか人が全くいない状況なのにも関わらず、俺の前を横切るおばさんが俺にめちゃくちゃ接近して通り過ぎていった。
あんだけ道幅あるのに!あんっっだけ広いのに俺とおばさんゼロ距離。
やってらんなくなります。
勇者ポイポイの冒険 第十八章
さて、魔王の親戚が世界を滅亡させようとしているので俺は再び冒険に出る。
海を越え大陸をまたぐため船は必須だ。
港町によってみたところ、魔王の嫁が船を出してくれた。船には魔王の叔父と魔王の祖母と魔王の姉と魔王の友達と魔王に最近急接近した人と魔王をもっと知りたい人と魔王が買った自家発電機を作った人が乗っていた。
「はぁ~い!笑顔が1番若い顔っ皆さんの元気になぁれ!ではではレッツ出港ーっ☆」
出落ちしてしまったバスガイドみたいなセリフを叫んだ嫁は、それっきり船底の小部屋から出て来なくなった。
俺はというと、大陸に着くまで暇なので甲板に出て外の景色を眺めることにした。我ながら健康的だ。
海を見ていると小島がたくさん見えてきた。これは小さな島があるという意味で、小島君が海に浮かんでいるわけではない。
あの島々もまたどこかの国同士みたいな奪い合いの的になるのかと思うと悲しくなる。
そして小島君はクラスの注目の的だ。
潮風が心地よい、今ならラブプラスを海に投げ捨てられる。
しかしそんな映画チックな行為は、環境汚染しか生まないのでラブプラスは懐に優しくしまった。
するといきなり操舵室から悲鳴が聞こえた。
「のへー!」
嫁の悲鳴だ。
急いで見に行くが、そこには冷静さを欠いた魔王に最近急接近した人がいた。
「モンスターが!」
どうやら船底を巨大モンスターが攻撃し始めたらしく、このままだと船が壊れてしまう。
船底の小部屋にいた嫁は真っ先にやられた。
「皆さん!ゴムボートに乗ってください!」
何故か魔王が買った自家発電機を作った人が仕切っている。
あれ、皆はもうゴムボートに乗って逃げてしまった。
要するに俺はこのまま海の底。
それは流石に嫌だ、壊れた船のそこそこ大きな木片にしがみ付き俺は海を漂流した。
勇者ポイポイの冒険 第十九章
目を覚ますと、眩しい日差しと柔らかい砂地が視界に広がっていた。どうやら見知らぬ島に漂流して来てしまったらしい。
奇跡的に無事だったiPhoneで現在地を確かめる。
「あなたの現在地は、尖○諸島です」
何とも国際問題になりかねない島に流れ着いたものだ。
しかし腐っても俺は漂流者、仕方の無い事態に中の国も大目に見てくれるだろう。
火を焚けば誰かが助けに来てくれるだろうと安易な気持ちで焚き火をしていると、森の奥から魔王が現れた。
「ポイポイか…お前ここで何をしておる」
俺は先ほど起きた出来事を話した。
「そうか…お前も大変だったな」
体育座りで2人でおっさんが海を見つめる。
俺はこの空気が居た堪れなくなり、思わずラブプラスを始めてしまった。
会話は弾まないまま、ゲームから聞こえてくるBGMが俺たち2人の虚無感を倍増させた。
しかし魔王は何も言わない。気を使っているのだろうかと、彼の方をチラ見する。
「ポイポイ、俺は…空になりたい」
何か危ない事を言い出したので、とりあえず落ちていたいい感じの石ころを魔王にあげた。
勇者ポイポイの冒険 二十章
この島に流れ着いて4日目の朝。
ついに近くの海域を船が通ったのだ。魔王が必死に大声で呼び、両手を左右に振り、まるでニワトリのようだった。
船が近づき船員の一人が残念そうな眼差しで魔王を見ながらはしごを下ろした。
何がともあれ助かった。
魔王は船には乗せてもらえなかったけど、きっとあの島で楽しく生活していけると信じてる。
船での俺の部屋というと、スイートルームさながらの豪華さだった。何よりWi-Fiが使えた。
夕食にはこれまた高級感あふれるフルコースディナーが用意された。何だか申し訳ないな。
魔王も今頃俺があげた石を眺めて腹を空かせているだろうに…。
完食した。ごちそうさまでした。物凄く美味だった。
魔王?……誰だっけ?
部屋に帰る度俺はPCを立ち上げネトゲを始めた。久々のネトゲに感動さえ覚えた。いや、そんな事はない。
なんて優雅な生活。この恩は生涯忘れないだろう。
……うん?
「ポイポイさん、起きてください島が見えてきましたよ」
俺は魔王の嫁が操舵する沈没したはずの小船に乗っていた…なるほど、全て夢か。
さて良い夢見たし、新たな大陸に向けて一応少年漫画の主人公ばりの好奇心と探究心を蓄えておくか。