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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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王子と七枚の鏡

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昔、あるところに一人の王子がいました。
 王子が7歳になったある日、自分の父親である王様から7枚の鏡をゆずりうけました。それは不思議な鏡でした。
「大切に飾り、決して壊すことのないように」
 王さまは王子にそうきつく命じました。
「はい。王様」
 王子は王様から鏡を受けとると、早速部屋に飾りました。すると、不思議なことにこの7枚の鏡は持ち主の未来を映し出したのです。
 1枚目は10年後、2枚目は20年後、3枚目は30年後という風に、それぞれ違った未来を映し出していました。
 1枚目にはりりしい青年になった王子の姿が、2枚目には美しい王女と結婚し、王女との間にできた可愛い子ども達がこちらに向けてにっこり微笑んでいます。3枚目以降も王子の華々しい人生が、まるでそこに本当にあるかのように写し出されていました。
「なんて不思議な鏡だろう」
 王子はこの鏡達をいたく気に入って毎日眺めていました。
 ところが7年経ったある日、この様子を見ていた悪魔が、
「ウシシ。面白い鏡あるな。いたずらをしてやれ」
 そう言うと、王子が外出しているすきに鏡に魔法をかけました。すると一枚目の鏡に王子の死んだ姿が、他の6枚の鏡は真っ暗で何も映さなくなってしまったのです。
 そうとは知らない王子が帰ってきて鏡を見るなり、ひどいショックを受けました。そして、
「嘘だ!こんなことあるわけがない!」
 と、怒って鏡を叩きわってしまったのです。
 その途端、怪しい煙がもくもくと立ち込めると、王子の姿は醜いコボルトの姿になってしまいました。
 コボルトになってしまった王子の姿を見て、王様は初め、たいそう驚き、それから女王とともに深く嘆き悲しみました。
「おお、王子よ。鏡を割ってしまうとは」
「この失態は私の責任です。王様。この呪いを解く方法をきっと探し出してご覧にいれます」
 王子がそう言うと王さまは
「この城を出ていくと申すか。では、旅に出る前にお前にこの剣と盾を与えよう。この剣は魔物を退け、盾はその者の真実の姿を映す」
 剣と盾を携え、馬に跨がり一人で呪いを解く旅に出ることにしました。

 けれども、コボルトになってしまった王子の旅は決して容易いものではありませんでした。
街に入れば、人々は悲鳴をあげながら窓を閉め、子ども達は泣き出したり、どこかに逃げていってしまうのです。
(ただ呪いを解く方法を知りたいだけなのに…)
 王子の心は傷付きました。
 やがて夜になりましたが、コボルトとなった王子を泊めてくれる宿は一軒もありません。王子は仕方なく野宿をすることにしました。
 次の街でもその次の街でも、みんな同じような態度で王子を迎えました。
 王子は夜は近くの草原で野宿をし、朝になれば自分には悪意はないこと、自分は王子で鏡の呪いを解く方法を探していることを一軒一軒伝えて歩きましたが、信じてくれる者は誰もいませんでした。

 ある村でのことです。一人の少年が王子に向かって、
「この村から出ていけ化け物め!」
 そう言って、道に落ちていた石を投げ付けました。石は王子の目に当たり、傷を負いましたが、王子は少年に何も仕返しをしませんでした。
「な、なんだよ!なんか文句あるのか!ふん!」
 少年はそのまま逃げていってしまいました。
 夕暮れ時、王子はまた野宿をするために近くの森に寝床になりそうな場所を探しに行きました。すると、
「助けて!誰か助けて!」
 川の近くで誰かが叫んでいます。
「誰か!早く!」
 叫んでいたのは昼間王子に石を投げてきたあの少年でした。少年の目の前には獰猛な熊が、少年をにらみ付けながら今にも飛びかからんばかりでした。
「危ない!」
 王子は馬からヒラリと降りると、少年と熊の間に入り、剣を熊に突き付けました。
 そうしてそのままじっと、誰も動かなくなりました。
 どれくらいそうしていたことでしょう。それまで低い唸り声をあげ続けていた熊は、ふいっとよそを向き、そのままのそのそとどこかへ立ち去っていきました。
「良かった」
 王子はほっとして言いました。助けられた少年はへなへなと腰を抜かしながら、
「助けてくれてありがとう。おじさんはいいひとだった。昼間は石を投げたりしてごめん」
と、謝りました。
「いいんだよ。それより私は今、自分にかけられてた呪いを解く方法を探しているんだ。だれか呪いや魔法に詳しい人を知らないか」
 王子が尋ねると、少年は少し悩んでから、
「最近、この森の奥に妙なばあちゃんが住みついている。その人なら、何か知っているかもしれない」
 そうして少年に言われた通り、王子は老婆の住む家を目指して一晩中森を進みました。すると、やがて一軒のボロ屋が見えてきました。
 王子がドアを叩くと、出てきた老婆は家にも負けないくらいボロボロの服を着ていて、気味の悪い声で
「うひひひひひ。コボルトが何のようかね?」
と笑います。
 そこで王子は、実は自分は人間であったこと、鏡を誤ってわってしまったことで呪いにかけられたこと、呪いを解くために旅をしていることを話しました。
 すると、老婆は口を三日月のように吊り上げ、また笑いながらこういうのです。
「うひひ。知っているとも。この森を抜けた先に荒れ果てた古い城がある。そこに住みついている悪いドラゴンを倒せば、お前の呪いはたちどころに解けるだろう」
 それを聞いた王子は喜び勇んで城へと向かいました。
 たどり着いた城は、朝だというのに薄暗くひっそりと静まり返っています。
「本当にこんなところにドラゴンなんているのだろうか?」
 王子はいぶかしがりましたが、剣と盾を構え直すと、慎重に城の中へと進みました。
「いた…!」
 大広間には全身を赤紫の鱗に覆われたドラゴンが、静かに寝息を立てていました。
「悪いドラゴンめ!成敗してくれる!」
 王子はそういうやいなや、ドラゴンに飛びかかりました。
 王子の声で目を覚ましたドラゴンは驚いたのか「ウオー!」と、大きな声で吼えました。
 しかし、どうしたことか少しも襲ってくる気配がありません。
「これはいったいどうしたことだろうか?」
 王子が戸惑い、剣をおろすとドラゴンの目からは大粒の涙が溢れ出したではありませんか。
「どうか、殺さないで。私はこの城の王女です。悪魔が私をこんな姿に変えてしまったのです。他のみんなも悪魔に鳥や獣の姿に変えられてしまいました」
 王子の頭の中で声がしました。王子がふと盾にかざしてドラゴンを見ると、涙が滴るドラゴンは、幼い頃あの鏡で見た自分の妻とそっくりでした。
「姫…!なんということだ。私は将来の妻を自分の手で殺してしまうところだった」
 王子は剣と盾を捨て、ドラゴンを抱きしめました。
「ウシシシシシ。もう少しだったのに」
「誰だ!」
 天井の方から恐ろしい嗄れ声がして、王子は上を見上げました。
「全く面白くない。お前が王女を殺すところをこの目で見てやろうと思ったのに」
 見ればそれは先ほどボロ屋で会った老婆でした。老婆はほうきに乗って城の窓から中に入ってきたのです。実はこの老婆の正体は、王子の鏡に魔法をかけたあの悪魔でした。
「お前が王女をドラゴンに変えたのか!」
作品名:王子と七枚の鏡 作家名:シーラカンス