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大地は雨をうけとめる 第9章 アニサードの横顔

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 そこへ、御寮様! と呼ぶ声が聞こえた。エクネだ。手に何か持って、こっちへ来る。
「御寮様、風が出てきました。お風邪を引くといけませんから、外套をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
 エクネに着せ掛けてもらう。ふと、気がつくと、その間シャムの視線がエクネに張りついていた。
 ふーん……そういうことか。
 エクネは、と見れば素知らぬ振りだ。
 外套を着たルシャデールはアニスの手をつかみ、立ち上がらせた。
「行こう、アニス。ここにいたら邪魔だ」
 シャムが困ったような顔をしてルシャデールを見た。
 金魚草や紅鹿の子草が咲く中を、アニスと手をつないで歩いていく。そして、さっき、シャムに聞かれたことを考え直してみた。
 年取って、死ぬまで。
 狂ったアニスをそばに置いておくのだろうか。そばにいなければならないのだろうか。
 身内に狂人を出した家では、物置小屋のようなところに、閉じ込めておくことも多いという。家の中に、そんなゆとりがなければ、「突然の病気」になってもらうこともある。シリンデも言っていたように、家族がこっそりと殺してしまうのだ。周囲の人間も、うすうす察しているが、何も言わない。
『いっそ、死んでくれた方がいい』
 そういうことだ。
 アニスが立ち止まった。
 つないでいない方の手をじっと見ている。小さな羽虫が手のひらに止まっていた。虫は動こうとしない。彼はうっすらと笑みのようなものを口元に浮かべて、見つめていた。