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大地は雨をうけとめる 第8章 魂の抜け殻

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「ちょっとした……」お世辞と言うほど、トリスタンに情がないわけじゃない。彼女は肩をすくめた。「志だよ」
「十分です。男は賞賛を必要とする生き物ですから。」
「おまえも?」
「はい、私を含め、世の多くの男は、賞賛を求めています。特に女性からの」 
「しょうもない生き物だ。たまにユジュルクに連れて行ってやって」
 ユジュルク地区にはトリスタンの妻(表向きはデナンの妻ということになっている)がいる。彼女ならトリスタンをうまく慰めてくれるだろう。
「はい、そういたします。しかし、御寮様も御無理をなさいませんように」
「おまえもね」
 いつも冷静で、感情を現さないデナンだが、親友の息子であるアニスが正気を失ったことに、心痛を抱えていないはずがない。
 ありがとうございます、と、彼は再び主人の部屋へ入っていった。
 賞賛が必要な生き物か。
 ルシャデールは薄い絹の掛蒲団にくるまって考えていた。
 知らず知らずのうちに、自分の言動がアニスを傷つけていたのかもしれない。ユフェリに何度か行ってみたが、見つからなかった。まだ、シリンデの門の内にいるのだろうか。もう、戻ってこないのか。どうしたら、戻ってくるのか。
 問いに答えはない。