久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上
「私はそんなに食べなくても大丈夫なんですよ」
「ふーん」
暗に大食いを指摘されているような気がする。
とりあえず、話題を変えようと暖野は思った。
「私ね、追加で必要なもののリストを作ったんだけど、見てくれる?」
「ええ、いいですよ」
マルカは快く言ってくれたが、リストは部屋に置いたままだった。
「ごめん、忘れて来た。後でいいわ」
「じゃあ、夕食の後で」
「そうね。マルカも、何かいるものがあったら考えておいてね」
「はい」
「今日の晩ご飯は何かしら?」
少しばかり空腹を感じて、暖野は言った。
「ノンノは、本当に食べることが好きですね」
「好きよ。でも、そんなに食い意地が張ってるみたいに見える?」
「誰も、そんなことは言っていませんよ」
「言ってないだけ、でしょ?」
「勘繰りすぎです」
「もういいわ。下に行くわよ」
言い争いは何も生み出さない。それに何と言われようが空腹には勝てない。
少々むくれながら食堂に入る。
しかし、用意された食事を見ると、そんな不機嫌など吹き飛んでしまう。
今日の夕食はイタリアンだ。ピザにパスタ、色鮮やかな野菜が盛られたバーニャカウダにコンソメスープ。見ているだけでも楽しくなる卓上風景だった。
席に着くと、マルカがジュースを注いでくれる。
大人になったら、これがワインになるのかな、などと暖野は想像してみる。
好きな人と二人で、ロウソクの灯を眺めながら……
ついつい顔が綻んでしまう。同時に、少し胸が痛む。
どうしてだろう――
こんな和やかで素敵なテーブルを前にしながら、胸の内側から針で刺されるような感覚を覚えるのは何故なのだろう。
現時点で好きな人も好いてくれる人もいない、そのことが引っかかっているのか。
どちらにしても気を病むこともない。寂しいことは確かだが、特段思い悩むほどのこともない。
そうではなく、もっと……
「ノンノ。さっきは済みませんでした」
マルカが謝ってくる。「私の言葉が悪かったのです。だから、ちゃんと食べてください」
「え? うんうん」
我に返り、暖野は頷く。
悩みというほどではないが、恋について考えていたにも拘らず違うように思われたことに、これには少なからずショックを受けてしまった。
もういい、自棄(やけ)よ――
暖野は目の前のピザを手に取った。
作品名:久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上 作家名:泉絵師 遙夏