小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

INDEX|84ページ/121ページ|

次のページ前のページ
 

11. 微睡みの花園


「今日は、ここに泊まるわよ」
 暖野は宣言した。
「まだ昼ですよ。それに、ここには小屋も何もありません。どこで寝るんですか?」
「いいじゃない、たまには」
 二人はまだ、野に倒れたまま空を仰いでいる。
 耳元で草が風に揺れる音が心地よい。
「まあ、ノンノがそう言うのでしたら、私は構いませんが」
 滝の水音が風に乗って途切れては聞こえてくる。
 飛ぶ鳥も蝶の姿もないが、その分余計な虫などもいない。こういう所で夜明かしできる機会などそうそうあるものではない。
 暖野はすぐ横で揺れている水色の花を一本手折って、かざしてみる。
 無情にも引きちぎられたことを抗議するかのように、その茎から苦いような酸っぱいような薫りが漂い出てくる。
 気づくと、マルカが仰向けのまま寝息を立てている。
 珍しいこともあるものね――
 いつも気を遣いすぎなのよ。たまには、こうやってのんびりすることも必要よ――
 そう思いつつ、暖野も眠りに落ちて行った。

「あー! ノンノったら!」
 懐かしい声が聞こえる。これは――
「ああ、リーウ?」
「あんたね、そのどこでも寝る癖、何とかしなさいよ」
「何とかしろって言われても……」
 暖野は中庭の花壇の中で眠っていたようだ。
 確か、谷の花畑で――
 花畑繋がりだとしてもこんな所で寝ていたら、リーウでなくとも呆れるだろう。
「あんた、まだ時間酔い治らないのね」
「リーウこそ、いい治し方あったら教えてよ。変な場所で目が覚めるとか、私も嫌なんだから」
「まあ、そうよね」
 リーウが、花壇から暖野を引き起こしながら言う。「ノンノは真面目っぽいし」
「私、真面目なんかじゃないわよ」
 確か、マルカもそう言っていた。
「時間酔いは、常識に縛られてる人ほど酷いって言うよ」
「そうなの? でも私、そんなに常識とか考えてないけど」
「種族とか家系とか、そんなのも関係あるんだって」
「ふうん」
「ま、適当でいいのよ。あんまり深刻に考えないこと。それが一番の治療法」
 その言葉に、暖野は笑った。
「でも、よかった」
「何が?」と、リーウ。
「ここに戻って来られて」
「うん。心配してたのよ」
「うん、ごめん」
「いいのよ。ノンノは通いなんだから。通いの人は、大抵そんな風なんだって。学院長と学寮部長がちゃんと説明してくれたから、こっちは大丈夫。それより、ノンノが気に病んでるんじゃないかって」
「私も大丈夫。リーウに事情言えないままだったから、気になってたの」
 言いながら暖野は、学院長がどう説明したのかが気がかりだった。そのことを訊いてみる。
「それね」
 リーウが言う。「ノンノが転移者で、しかも通いだから、色々サポートするようにって」
「それだけ?」
「それと、特別扱いせずに仲良くやれって」
 そうか……
 暖野は少し安心した。時計のことや諸々は内密にしてくれたんだ、と。
「やっぱり、何か言われたの?」
 暖野の様子を見て、リーウが訊いてくる。
「ううん。ただの転入生に、こんなに気を遣ってもらって申し訳ないなって」
「ただの転入生じゃないわよ」
「じゃあ、何なの?」
「優等生で期待の星」
「そんな……」
「照れなくてもいいのよ、ホントなんだから。それにね――」
 リーウが言葉を切る。
 暖野は続きを待った。
「ノンノは私の友達だから」
「な……」
 暖野は赤くなった。
 それを見て、リーウが笑う。
「ノンノって、ホントに可愛い」
「もう、やめてってば!」
「それにさ、ノンノと一緒にいたら退屈しなさそうだし」
「それって、どういうことよ」
「何たって、爆発女だもん」
「その言い方はやめて!」
 リーウは笑いながら逃げる。
「もう! リーウ!」
「冗談よ! 冗談!!」
 ひとしきり鬼ごっこを堪能した挙句、二人は食堂の外の目立たない場所に落ち着いた。
 笑って走り過ぎたせいで、二人とも喉が渇いてしまっていた。売店で飲み物を買い、あの騒ぎのこともあって隅の方に席を取った。リーウによると、今は既に放課後で、授業の心配はいらないらしい。ちなみに、暖野が学院長室に呼ばれたその当日の午後だった。
 食堂は昼食時間以外でも飲み物や軽食は提供してくれるとのことだった。
 昼食をおごってもらったこともあり、ここは暖野が出すことにした。
「ノンノ、あんたって本当にすごいのね」
 レモネードを飲みながら、リーウが言う。
「すごいって? 私、何もしてないよ」
「あんた、マナ高見てなかったの?」
「見てない。そんな余裕なかったから」
 実際、会計数値を見るという行為だけで緊張してしまって、他のことに気が回らなかった。
「あんた、大マナ持ちよ。ここで毎日みんなにおごってもいいくらい」
「そんなに?」
「でも、そんなにマナ値高かったらヤバいよ」
「ヤバいって?」
「前に言ったでしょ? ハレーションとか」
「ああ、あのことね」
「ハレーションどころか、バースト級だわ。多分、学院長にも気づかれてるよ」
「そうなの? どうしよう……」
 暖野は不安になる。しかしあの時、学院長が話したことは覚えている。彼の言葉は、それを知った上でのことだったのだろうか。
「大丈夫。ノンノは毎日私におごればいいのよ」
「いや、そんな問題じゃないと思うけど」
「そうよね。それだけじゃ足りないとすれば――」
 リーウが宙を仰ぐ。
「じゃあ、ここの校舎を全部純金にするとか?」
 おかしなことを言われる前に、暖野は言った。
「お! それいいね!」
 いや、乗ってこられても困るし――
 暖野は苦笑した。
「ってかさ。そんなに値高いのに、よく平気でいられるよね。ひょっとしたら、その時計のせいで異常数値出ただけなのかな」
「さあ。自分では分からないし」
「ま、これは上の方が何とか考えてくれるでしょ」
 リーウが飲み終えたグラスの氷をかき回す。「ところでね。通うって、どんな感じなの?」
「気づいたら、ここにいる」
 少し考えて、暖野は言った。
「よね。いつもそうだし。それもだけど、どうやってこっちに来てるの?」
「どうやってって言われてもね……。寝てる時にって言うのかな……」
「ふうん」
 ストローを咥えて、リーウが言う。「やっぱり、向こうでも寝てるんだ」
「でもね、いつも来られるわけじゃないのよ」
「そうなんだ。なんか不便ね」
「私も聞きたいんだけど」
 暖野が言う。「私がいなくなる時って、どんな風なの?」
「気づいたら、いなくなってる。ちょっとよそ見した隙に、消えちゃってる感じ。まあ、それは分かる」
「分かるって?」
「フーマも通いだから」
「フーマ……、カクラ君?」
「うん。あいつの場合は、いつの間にかいて勉強してる。あんまり喋らないから、いつからそこにいたのか誰も気づかないの」
「それで、いなくなる時も同じようになのね」
「そう。んで、向こうに帰った時は? やっぱり寝てるの?」
「うん。だから、起きた時に混乱する」
「そうか。じゃあ、ノンノのは時間酔いってわけじゃなくて、仕様なのね」
「仕様ねえ……」
 それって、人間にも使う言葉なんだろうか、と暖野は思った。
「あ、そうだ」
 暖野は思い出して、足元に置いた鞄に手を伸ばした。