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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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「いや、実在はしているのだよ。だが、他のあらゆる時空の制限の枠外にある特異空間にある」
「あの……」
「簡単には理解出来ないだろうね。私も、昔はそうだった。だが、君の知っている宇宙にも特異点は存在しているし、他の数多の時空にもそれはある。それぞれの特異点は各宇宙の調整のためにあって、その中心がこの学院なのだよ」
「……」
「まあ、今の時点で理解しなさいと言う方が無理なことだ。君はまだ若い。その責任を自覚させるのは忍びない」
 同じようなことを前にも言われたな、と暖野は思い返す。
「逃げのような仮説ではあるが」
 イリアンが、しばらく間を置いてから言った。「我々が感知できていないどこかに自律した特異点があり、その時計はそこで作られたのではないか、と」
「それは、ここと同じような……?」
「そうかも知れないし、そうではないかも知れない」
「ここでもやっぱり、分からないんですね……」
「それがある、存在しているという事実そのものが理由にもなっているとしたら、由来を求めることは無意味だとも言える。その場合は、それ自身が謎を明かしてくれるのを期待するしかない」
 今はまだ、その時ではないということか、と暖野は思った。
 授業中の校内は静かだった。
「どうも、申し訳ありませんでした。色々聞いてしまって」
 言葉が続かない。
 聞きたいことは幾らでもあるのに、上手く口に上らない。
 互いに沈黙したまま、時が流れた。
「そうそう。君に言わなければいけないことがある」
 イリアンが表情を変えて言った。その顔は先ほどまでとは打って変わって明るい。「君の学級のことだが」
「聞きました。あのクラスですよね」
「そう。それと、君と一緒にいた生徒――」
「リーウ――。リウェルテ・マーリさんですか?」
「そう。あの子は非常に優秀な生徒だ。きっと、君の支えになってくれると思う」
「はい、私もそう思います」
 これだけは、暖野も自信を持って言えた。
「すまないね。貴重な学習時間を割いてもらって」
「いえ、そんなことはないです。有難うございました」
 暖野は深々と頭を下げた。
 イリアンも立ち上がって、頭を下げる。
「何か、困ったことがあったら、言ってきなさい」
「はい。でも、大丈夫です。たぶん――」
 イリアンが笑う。
「君は素直な子だ」
「では、失礼します」
 暖野はもう一度礼をして、部屋を辞した。

「特異点か……」
 暖野が去った後、イリアンは壁に頭を打ち付けて呻いた。「我々は、一体何をやってきたんだ……」