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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 周りより少し高いだけだが、角度が変わると視界も変わる。
 広場の先、一面の草地の中に何かがあるのが見えた。
「建物……の、土台?」
「そのようですね」
 暖野の問いに、マルカが応える。「行ってみますか?」
「ううん、いいわ。あんなんじゃ、見ても仕方ないでしょ」
「ええ。やっぱり、ここには人が住んでいたようですね」
「まあ、駅もあるんだしね」
 暖野は言ったが、この世界では駅があってもそこに必ずしも町があるとは限らない。笛奈や砂浜に行くためだけの停留所もあるのだから。
「ねえ、南の方に海への出口があるって言ってたわよね」
 暖野は思い出して言った。
「そこまで船でどれくらいかかったのか、知ってる?」
「さあ、それは聞きませんでした。ただ、そういうものがあったということだけで」
「鉄道も、そこまで行ってたのかしら」
「列車は、船よりも前になくなったとか、博士は言っていました」
 列車で行けるなら、わざわざ遅い船便は必要ないだろう。では、線路はどこか違う所へ通じているということか。いずれにせよ、それはずっと遠くには違いないのだろう。沙里葉のターミナルも長距離列車が発着していたような雰囲気だった。
「この世界って、広いのよね」
 至極当然のことを言ってみる。
「そうですね。ノンノは、海は世界を囲むほど大きいと言っていましたね」
「ええ」
「私には見当もつきませんが」
「でも、こんな広い世界で、存在するかも分からない人や町を探すなんて、やっぱり無理じゃないの? 前に、心のままに行ったらいいって言ってたけど、乗り物もないのに延々歩くのは嫌だわ」
「まあ、それは確かに辛いですね」
 マルカも同意する。
「普通、冒険とか言ったって、船とか飛行機とか乗り物で出発するものでしょ? なんで歩かなきゃいけないのよ。無謀すぎるわ」
「まあ、そう悲観的にならないでください。汽車だって、そのうちに来るかも知れないですし」
「それじゃ、やっぱり沙里葉で待ってた方が良かったってことになるじゃない」
「でも、出発しないことには先に進めないと言ったのは、ノンノですよ」
 それを言われると、返す言葉もない。
「そうね……」
 暖野は言った。「私が悪かったわ」
「大丈夫ですよ。もしノンノが疲れて歩けなくなったら、負ぶってあげますから」
 よくそう言うことを平気で口に出来るものだと、暖野は思う。
「いいわよ、そんなことしてくれなくたって、自分で歩けるから」
 すでに昼を過ぎている。そろそろ今夜の寝場所を考えた方がいいのかも知れない。もちろん、ここではない場所で。
 小屋はあるが、どう見ても人間サイズではなかった。おそらく資材置き場か何かだろう。
 でも、確認だけはしておこうと、線路の上をそちらへ向かう。
 近づくと、小屋からも線路が出ているのが見えた。だが、すぐに途切れている。
 小屋の中にあったのは、手漕ぎ式のトロッコだった。
 交通手段……ね――
 彼女はそれを疎(うと)ましげに見つめた。
 これは、どういうことなんだろうな……
 確かにそれは、歩きよりは便利な移動方法だ。だが、桟橋でのスワンボートと言いこのトロッコと言い、中途半端感が激しすぎる。
 それに――
 あっちが足漕ぎなら、これもそうしてよ――!
 そう、自転車タイプのトロッコならまだしも、ポンプのような手漕ぎ式などあまりにもレトロ過ぎる。それに何よりも――
 疲れるじゃないのよぉ――
 それでも、ひたすら歩き続けるよりはまだいいことは確かだった。
 二人して小屋からそれを引き出し、レールに載せる。
 不満はある。だが、これが今の精一杯ということなのか。
 難しいのね――
 暖野は思った。
 ボートもトロッコも彼女自身の思いが引き寄せたものなのだとしたら、どうやれば上手く望むものが現れるのか。
 二人してハンドルに手をかけ、漕ぎ始める。最初はゆっくりと、速度が出始めるとそれなりに。
 線路には急勾配もないため、思ったよりも楽に進めた。この分だと結構距離が稼げそうだ、と彼女は思った。
 だが、距離を稼ぐことにどれほどの意味があるだろう。無限大とも思える世界では、それは無限小でしかないのではないか。
 暖野が後ろ、マルカが前に乗っていた。それはマルカが後ろ向きになることを意味する。前方を注意するのは自ずと暖野の役目になる。
 電車とは違って速度が上がれば、受ける風も強くなる。極めてアナログな乗り物とは言え、結構な速度が出るのに驚く。本当はこれほどに速く走らせるものではないのかも知れないが、初めての身ではそれを知りようもない。何せ速度制限もアラームもない。
 いい調子で幾つも丘を越えてゆく。最初の上り勾配こそきつかったが、後はジェットコースターのように惰性でも何とかなった。そもそも鉄道の線路なので、坂も緩い。
 とは言うものの、見えるのは丘と川と草原。人家はおろか次の駅にいつ着くことやら。
 幾つ丘を越えたり回り込んだりしただろう、快調に飛ばしながら暖野は思った。
 置き石とかあったらヤバいな――
 急に突き上げるような衝撃が来る。
「あうっ!」
 息も上がりかけていた時で、危うく舌を噛むところだった。
 どうも、石に当たったらしい。
 置き石とか考えていたからか。
 そんな、要らないことはすぐに起こるのね――
 半ば呆れながら、暖野は思う。
 でも、気をつけないと――
 ここでは、下手に何かを考えることも出来ない。
 今の衝撃で、彼女は手の痛みに気づいた。
 ずっと漕ぎっぱなしで、風の強さもあって気が回らなかった。
 片手を放して手の平を見ると、小さなマメが出来ている。これは、あまり宜しくない。ちょっと調子に乗りすぎたか。
 適当な所で休憩した方がいいかも知れない。出来たら勾配の天辺あたりで。
 そう考えつつ前方に視線を戻す。
 と――!
「マルカ! ブレーキ!!」
 慌てて暖野は叫んだ。
「ど、どれです⁉」
「それ! それよ! 右のやつ!!」
 すぐ先に急カーブが迫っている。カントはあるが、このままの速度では遠心力で放り出されそうだ。
 ブレーキレバーは二つ、互いの右手にある。二人は思い切りそれを引いた。
 火花が飛び散る。
 トロッコは急カーブに差しかかったところで停止した。
 危ないところだった。もう少し気づくのが遅れていたら脱線していたことだろう。
「もう! ホントに気が抜けないったら」
 暖野は忌々し気に言った。
「間一髪でした。ノンノ、助かりました」
「え? うん。まあ……」
 そもそもよそ見をしていた自分が悪い。礼を言われるようなことではない。暖野は申し訳なく思った。
「少し、休憩しましょう」
 彼女の様子を見て、マルカが言う。
「そ、そうね……」
 トロッコに乗ってからもうかなり経っていたが、ここまでに駅は一つもなかった。距離にしては相当来ているはずだった。
 線路はカーブを過ぎたところで橋になっている。その先で低い丘を越えているのが見えた。
「この先ずっと、こんな調子なのかな……」
「きっと、何かありますよ。そう信じましょう」
 気弱げに言う彼女を、マルカが励ます。
「沙里葉以外は全部無くなったって、本当だったのね」