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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 食後のお茶を飲みながら、暖野は思った。
 もったいないから、もらって行こうと。
「マルカ、ちょっと待っててくれる?」
「ええ、構いませんが……。トイレですか?」
 マルカが不思議そうに言う。
「違うわよ」
 暖野は言って、食堂を出た。
 私って、頭いいかも――
 鼻唄など歌いながら、暖野は部屋へと戻った。昨日コンビニで買い物したときのビニール袋を持って、食堂へと戻った。
「ノンノ、何をしてるんです?」
 戻って来るなりパンを袋に詰め込み始めた彼女を見て、マルカが訊いた。
「お弁当よ」
 彼の方を見ずに、暖野が返す。
「お弁当?」
「そう。これからどこへ行くのか知らないけど、ちゃんとしたものが食べられるかどうか分からないでしょ?」
「ああ、そういうことですか」
 マルカは納得したようだった。
「さてと――」
 暖野は椅子に腰を下ろした。「これからのことについて話し合おうって、昨日言ってたわよね」
「ええ。あんまり一生懸命に食べていたので、いつ言い出そうかと思っていたのです」
「失礼ね。私、そんなにがっついてないわよ」
「まあ、いいですけどね。だた、あんまり食べ過ぎると体に毒ですよ」
「それなら、食べる前に言ってよ」
 悪気はないのだろうが、一々気に障ることを言ってくるマルカを、暖野は軽く睨んだ。
「すみません」
 目を伏せる彼に、逆に自分が悪いことを言ってしまったような気分に、暖野はなる。
「それで、これからどうするの? どこへ行けばいいの?」
「それは判りません。ノンノはどうしたいですか?」
 確か昨日も、行き先のない旅だと言っていた。
「どうしたいかって言われてもねえ。何度も言ってるように、帰りたいとしか……」
「では、帰るためには、どうしたらいいと思いますか?」
 何これ。何かの面接――?
 そんな思いが過(よぎ)ったが、彼女には中学時代の三者面談以外に面接らしいものを知らない。
「出口を探す……?」
 応えが疑問形になる。
「そうですね」
 マルカが少し意外そうに言った。「そうとも言えますね」
「どういうことよ」
「私としては、それは入口のように感じていたものですから」
 まあそうだろうな、と暖野は思った。こちらの世界にしてみれば、彼女の世界への入口と言うことになるのだろう。
「でも、右も左も分からない状態で、ただ闇雲に探し回って見つかるものなの?」
「見つかるはずですよ。ノンノがそれを望んでいる限り」
「また、それね」
「とりあえずだけでもいいので、まずどちらの方向へ進みたいとか、何かを見たいとか、希望はありませんか?」
「だから――」
「分かっています」
 うんざりした口調の暖野を、マルカは制した。「このままでは、また同じことの繰り返しになるだけです。でも、これだけは心得ておいて欲しいのです」
「な……何よ、急に」
 真剣な表情になった彼に少々たじろぎながら、暖野は言った。
 マルカはひと呼吸してから語り始めた。
「これからの旅はノンノ自身がすることであって、決して私がするものではないのです。目的地がないようなことを言いましたが、きっとそれはあるのでしょう。でもそれは、ノンノの目的地です。私もそこを目指しています。ノンノの目的地は私の目的地でもありますが、その逆ではありません」
「なんか、よくわからないけど、要するにマルカは私について来てくれるってことね」
「ええ」
 マルカが頷く。「全てはノンノの判断に任されているのです。ここは恐らく、もうノンノの世界のはずなのです。私が口出ししたところで、どうにかなるものではありません。私は見守ることしかできません」
「……」
 黙り込む彼女に、マルカは付け加えた。
「難しく考える必要はないのではありませんか? ノンノの心のままに行動すればいいと思いますよ。たとえ意識していなくとも、あなたは知っているはずなのですから」
「私、ほんとに何も知らないのに? もし、全く見当違いの方へ行ったとしたら?」
「もしそうだとしても、行き着くところは同じでしょう。と言うより、間違うことはないと思います。だから、自分の心に忠実でさえあれば、きっとそこへ行けるはずです」
「知ったような言い方。まるで行き先がもう決まってる前提に聞こえるわ」
 暖野は胡散臭そうに言った。
「私は、そこがどこだか本当に知りませんよ。右も左も分からないのは、今の私も同じなのですから」
 暖野は溜息をつく。
「じゃあ、いつまでもここで喋っていたって、しょうがないってことね」
「そういうことになりますね」
 二人は席を立った。
「用意してくるわ」
 階段の上り口で、暖野は言った。
「では、私は玄関で待っていますから」
「あなたはいいの?」
「私は、不必要なものは持ち歩かないんです。もっとも、持って行かなければならないようなものなど何もないのですが」
 暖野は部屋へ戻ると、床に置いたままの鞄の中身を確かめた。
教科書にノート、筆記具、それに文庫本やあれこれの小物類。旅に出るには、不要なものが多すぎる。おまけに装束と言えば学校の制服と来ている。幸か不幸か昨日は体育の授業がなかったため、運動着は持っていなかった。
 制服よりは体操服の方がマシかな、などと考えてみるが、それもまたおかしな服装であることには違いなかった。
 ――もっと冒険者っぽいのとか、勇者みたいなのがいいのかな。お姫様みたいなの――そこまで考えて、暖野は首を振った。さすがにお姫様の服装では動きづらいだろうと思ったからだ。
 鏡の前で髪を直し、ネクタイが歪んでいないかチェックした。
 最後にもう一度室内を見回し、忘れ物がないか確認してから部屋を出た。