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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 石段を上がり、建物の中へ入る。磨き上げられた床も壁面のレリーフも前に来た時と変わらない。レリーフは恐らく細緻なものだろうと思われたが、暗くてよくは見えなかった。暖野はもっとよく見ようと、目を凝らした。
 と、その時だった。建物内の照明が一斉に点った。
 暖野は思わず目を閉じ、手をかざした。そして、ゆっくりと目を開ける。
 それは、まさに感動的な光景だった。
 天井から下がった大きなシャンデリア、壁面や柱に取り付けられた飾りランプ、それらのことごとくが暖かな光を発していた。
 暖野は頭上を振り仰ぎ、呆けたように見つめ続けた。
 シャンデリアの上の天井も絵画で彩られている。
 最初にここに来た時、博物館のようだと思ったが、むしろ大聖堂かと見まごうばかりだった。
 彼女はしばし、いま現在自分の置かれている状況を忘れ、その美しさに見入った。
 改札口の向こうの空間にも明かりが点いている。古いターミナル駅のような、弧を描く高い屋根。その先には暮れてゆく空が見えた。
 改札内に足を踏み入れる。
 駅員などいない。停まっている列車もない。無人のプラットホームと輝くレールだけがあった。
 暖野はプラットホームの先の方まで、時間をかけて歩いた。急ぐ理由などない。
 高い屋根は途中で終わり、あとは吹きさらしだった。
 信号機が見える。だが今は光を失い、空虚な深淵を映すばかりでしかなかった。
 遠くでレールがまとまり、また分かれて延びている。
 弱い風が吹いていた。
 暖野はその風を感じながら考えた。
 あの夢のことを。
 恋の記憶――そこに至ると、たまらなく切なくなってくる。
 そんな経験なんて、ないのに――
 そのこと自体が、切ないのかもしれなかった。
 暖野は瞳を閉じる。
 こんな所にいながら現実の所在について思い悩むのは、すこぶる滑稽なことに思えた。

  いま、目の前にあるのが現実
  だが、真実は違う
  現実は影
  真実は光……

 不意にそんな言葉が脳裏をよぎった。
 これまで暖野はそんなことを思ったこともなかった。
 現実と真実――
 分からなくもない自分が不思議だった。
 胸の奥のわだかまりが、また首をもたげてくる。
 捕まえようとすれば逃げられてしまいそうな何かを追いかけることに、疲れ気味になっていた。
 こんなので、世界が救えるっていうのかしら――
 暖野は黄昏の中で、風に吹かれ続けた。