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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 それを飲み込むと、リーウは口を潤すように一口ジュースを含んだ。
「いなくなったの」
 短い沈黙の後、リーウが言った。
「いなくなったって、私みたいに?」
「そんなのじゃない……」
 寂しげに、リーウが首を振る。そんな彼女を見るのは、暖野は初めてだった。
 リーウが続ける。「力がなくなったの」
「力が? それはマナがってこと? そんなことって、あるの?」
「彼女は、力をなくして、存在自体が希薄になって……」
 遠い目をする。「彼女とは、ほとんど同期だった。いつも一緒だった」
「……」
「最後まで……」
「最後までって……」
「彼女は、もう空気みたいになりながら、私にこう言ったわ。“やらないといけないことがある。それは自分に残された使命だから”って。笑顔でね。――そして、消えた」
 リーウの目に涙が浮かぶ。「馬鹿ね! 自分の存在さえ維持できないのに、一体何をやろうってんだか」
 そして、無理に笑った。
「……ルーネア・ケイ」
 最後にリーウの口から絞り出された名を聞いて、暖野は息を呑んだ。
 ルーネア・ケィ・コーセム・フエナ。それは、あの廃墟で出会った少女。名前は少し違うが、フーマのように本名は伏せられていたのかも知れない。
 リーウが言った、その子がやらなければならなかったこととは、あの廃墟で自分に会うことだったのではないのか――
 だが、そんなことは言えない。あの時のルーネアの哀しみは、今も暖野の心の奥にしこりのように残っている。言えば、更にリーウを悲しませることになるだろう。
「ごめん。嫌なこと、思い出させて」
 暖野はそれだけを言った。
「いいのよ」
 小指の背で涙を拭いながら、リーウが微笑む。「それに、ノンノって、どこかルーニーに似てるんだよね」
 あの寂しげな少女にも、こんなあだ名があったんだと暖野は思った。
 それにしても、ルーネアの存在が希薄になって消えたとは、かつてアゲハが言っていたような理由からなのだろうか。しかし、消えて行く存在に誰も気づかなかったと言っていなかったか。
 リーウには悪いが、それは重要なことのように思えた。
「ねえ。その子がいなくなったこと、リーウ以外は知ってるの?」
「え?」
 意外なことを聞かれたようで、リーウが驚く。「どうして、そんなこと訊くの?」
「ひょっとして、そのことはリーウしか知らないんじゃないかって」
「うん。その通りよ。みんな、彼女がいたことすら忘れてる。っていうか、最初からいなかったみたいに」
 やはりそうだ。だが、どうしてリーウだけがそれに気づけたのか。
 でも、こんなに哀しい思いを引きずってるなら、いっそのこと他の人たちと同じように忘れてしまった方が――
 暖野はその考えを急いで否定した。
 それでは、あまりに哀しすぎる。ルーネアも、リーウの楽しかった思い出も消えてしまうなんて――
「でもね、ノンノはルーニーの代わりじゃないよ。似てる所はあるけど、あの子はもっと上品だったし」
 何気に貶(けな)してくれるのね――
 そりゃ、ルーネアはお姫様なんだし。リーウは知らないけど――
「どうせ私は品がないし」
「そういう意味じゃないよ」
「いいのよ。泣かしちゃったんだから、許してあげる」
 暖野は言った。「もう、この話はよしましょ」
「うん。でも、ありがと」
「どうしてよ。感謝されることなんてないわ」
「彼女のこと、思い出させてくれて」
「うん……。リーウが、そう言ってくれるなら」
 リーウが一つ、大きく手を叩いた。
「さて!」
 そして、明るい口調で言った。「ところで、ノンノの世界のこと聞かせてよ――」