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ひょっとこの面

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11.真相



 横たわり、冷たくなっている束彩を見て私は考えていた。そして、ようやく全てを理解した。

 父と母の、いわゆる修羅場を目の当たりにしてしまった新山は、その光景の余りの凄惨さに口が利けなくなったんじゃない。幼い新山もまた、淫乱な母を子供心に許すことができなかったのだ。だが、そんな許し難い母は、怒りに猛り狂った父によって切り刻まれ殺されてしまった。故に、新山の心には、淫奔な母への拭い切れない憎しみだけが取り残され、燻り続けたのだ。
 そこで、新山はどうしたか。小さい頃、嫌と言うほど脅され、泣かされた、なまはげのような仮面の神様に、地獄にいる母への復讐を付託しようと考えたのだ。年に一回の恒例行事で、それこそ死ぬ程怖い思いをさせられた仮面の神様。例えその正体が、近所の小父さんだと分かっていても、新山はその仮面の神様が、不品行な母を自分の分まで再び懲らしめ、無残な割腹を遂げなければならなかった父の溜飲を下げてくれると信じたのだ。
 だから新山は、あのひょっとこの面を仮面の神様に限りなく似せて作った。自分の母を含めた淫猥な女への復讐の念と、自分の父を含めた寝取られ男の悲哀とを込めて。それゆえに、この面にはひょっとこ特有の滑稽さのみならず、唯ならぬ妖気と憂愁とが執念深く纏わりついていたのだろう。
 だが、新山は自身の目の前に拡がっていた陥穽に、全く気付いていなかった。駆け落ちをしてまで自分が愛した女━━束彩にも、母に勝るとも劣らない淫らな血が流れていたと言うことを。
 新山が束彩の本性にどのようにして気づいたかは分からない。束彩が過去に不貞を行っていて、具体的な証拠が挙がったのかも知れないし、束彩にそのような匂いを本能的に感じ取っただけかも知れない。それは今となってはもう分かりようもない事だろう。だが、どちらにしても新山は、愛する束彩に母の淫乱な面影を見つけてしまった。
 束彩の真の姿に気づいた新山は、きっと深く悩んだはずだ。愛している束彩を手にかけて、父の悲劇をこの自分も再び繰り返すべきなのかと。だが、兄の家で一人悩みに悩みぬいた新山は、結局束彩を葬り去ることはできなかった。それどころか、自身が恨みの念を込めて造ったひょっとこに心を押し潰され、その繊細さゆえに、自分だけがこの世を去る道を、選ばなければならなくなってしまった。
 しかし、作者が死んでも、ひょっとこに込められた復讐の思念はこの世を去りはしなかった。その妖気に本能的に感応し、束彩を殺める役を務めたのが、他ならぬひょっとこに魅入られた私だったというわけだ……。

 名実共に私が汚してしまったこのひょっとこは、不本意だが叩き割ることにしようと思う。後世に残すべき異形の傑作ではあるが、同じような悲劇を繰り返すことは避けなければならないだろうから。
 私は、束彩を殺めてしまった罪を償うため、これから毒でも呷って、新山と束彩の後を追おうと思う。そして、惨いことをしてしまったことを束彩に、束彩を抱いてしまったことを新山に、それぞれあの世で謝ろうと思っている。だが、例えあの世であろうとも、どんなに罵られようとも、足蹴にされようとも、私はあの哀れな新山に、このひょっとこの面の作者に、会えることが楽しみで仕方がないのだ。

━了━
作品名:ひょっとこの面 作家名:六色塔