大地は雨をうけとめる 第4章 逃亡計画
驚いてへゼナードは聞き返す。
「君が言っていた『違うこと』を探しに」
そうだ、違う道を探そう。御寮様に僕は必要ない。侍従なんて誰だっていいんだ。いや、僕じゃない方がいい。僕みたいな気のきかないのろまよりも、もっとほかの誰か。
へゼナードは他に何か意図があるのではないかと、怪しむようにアニスをじろじろ見る。
「なんでおまえがアビューを出なきゃならないんだ」
「……話せば長くなる」
「御寮さんを捨てて行くのか?」
「君だって同じだ」
「あいつはおれから離れないと、かえってダメになる。でも、おまえのところは違うんじゃないのか?」
「うちの方は……僕がいなくても大丈夫だ」
むっつりとへゼナードは考えていたが、やがてそれを振り切ったのか、アニスに言った。
「わかった。決行は四日後だ。それまでに自分の荷物を用意しろ」
「わかった。行く先は?」
「秘密だ。おまえみたいないい子ちゃんは、いざとなると裏切りかねない」
「僕だって好きでいい子ちゃんしているわけじゃない!」
思わずアニスは大きな声を出した。
「他に……他になりようがないんだ!」
ふだん穏和なアニスが怒りにけおされたのか、悪かった、とへゼナードは低い声でつぶやいた。
「最初にペトラルに向かう。その後は……まだわからない」
アニスは黙ってうなずいた。
※瘡:梅毒のこと。
作品名:大地は雨をうけとめる 第4章 逃亡計画 作家名:十田純嘉