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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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エンペドクレスの羊

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――記憶の消し忘れは、わたしの責任よ。今度こそ、ちゃんと消してあげる
 ルラビィ、消さないで――!
――私の名前、知ってるの!?
 お願い、消さないで。死ぬの。死ななきゃいけないの。でなきゃ、殺されるの――
――あなた……
 私は真悠子。前も、真悠子だった。同じ。だから――
――違うわ。きっと、そうよ。前に幸せになれなかった分を取り返すために、あなたは生まれてきたのよ
 違う。まだ奪い足りないから。私はまだ殺されてないから。殺されるまで生きろってことなのよ――
――そんな……。そんなひどい魂なんて、あるの? ちょっと、待ってよ。前も真悠子だったって……。あなた、同じ生を何度も生きてるって言うの? え? 記憶が完全に戻ってるの? どういうこと?
 私は真悠子。前も、真悠子。その前は男だった。名前は、悠真《ゆうま》。でも、その前は、また真悠子――
――嘘……でしょ?
 私は、この世界に生まれてはいけないの。なのに、何度も生まれさせられるのは、どうして――?
――分からない。分からないわ
 そうよね。あなたは、記憶を消すことしかできないもの。そして、その後のことはなんにも知らない――
――あなたみたいな子がいるなんて……
 知らなかった? 嘘でしょ? あなたは、赤ちゃんの前世の記憶を消す。消すためには、それが何なのか知らないといけない。違う――?
――……
あなたは、私を知っていて、知らない。知らなくて、知ってる――
――あなた、何者?
 私は真悠子。神様のおもちゃ――
――わたしには、神様とか分からないけど。人の命をおもちゃになんて、できるの?
 できるわ。いくらでも。投げつけ、踏みつけ、ばらばらにして作り直して、動かなくなってもいじりまわして、完全にこわれて捨てられるまで――
――嫌、そんなの
 だから、嫌って言ってるでしょ――?
――分かったわ。でも、記憶を消さないわけにはいかないの
 それが、仕事だから――?
じゃあ、やれば? 私は忘れない。これまでみたいに――
――ごめんなさい……
 いいのよ。あなたのせいじゃないから――
――ごめんなさい
 ルラビィの目がひらめく。
 いま、なにをしていたんだっけ――?
 歌が聞こえる。懐かしい歌。何度も、なんども聞いた歌。
 なにを言うのか、もう分かってる。
「こんどこそ、しあわせになれるといいね」
 そう、何度も信じた。でも、もう疲れたの。忘れたふり、してあげる。
 だから、今回は私から言うよ。
「ルラビィ、バイバイ」

 赤ん坊が、真悠子が空に手足を伸ばす。
 母親が言う。
「あら、いまはご機嫌なのね」
 赤ん坊がそちらを向く。
 まるで不思議なものを見るような眼差しで。

 そう、私は真悠子。
 閉じ込められたままの、繭子《まゆこ》。