和ごよみ短編集
「はい、完了。じゃあ、簡単なお料理ですが お母さんも食べてください」
錦糸卵に彩りよく飾られたちらし寿司。温かな蛤のお吸い物。菜の花のおひたし。
「おかずではありませんが、これも出しておきますね」
草餅と黒文字の乗った銘々皿を傍に添え置きました。
「菜々は、おばあちゃんが買ってくれたケーキがいいなぁ」
「じゃあ、ご飯食べたら食べようね。おかあさんも食べていい?」
「んー いいよ。ね?おばあちゃん、おかあしゃんの分もある?」
「よかったぁ。なかったら 菜々のはんぶんこしてあげるの」
微笑ましく菜々花を見つめる菜々花のおかあさんとおばあちゃん。三人は、歳の離れた女子会を楽しむようにゆったりとお料理を食べました。それぞれの雛祭りを思い出し、ふとほころぶ顔を見られてないかと視線をあげるおとなふたり。
「菜々花ちゃんのおかあさんは、きちんとお祝いしてもらったのでしょうね」
「いえ、そんなことないと思いますよ」
「だって、ほら。これも、これも。草餅だって用意するなんて。ご実家できちんとしてもらったからじゃないかしら。わたしは 男の子しか育ててないから、今日のお招きは とっても嬉しかったわ。ありがとう」
「喜んでいただけて 嬉しいです。菜々花とふたりじゃ寂しいですし」
菜々花はおかあさんとおばあちゃんの顔を交互に見ながら、にっこりと笑った。
「ねえねえ おとうしゃんに送ろう」
「そうね。お母さんもご一緒に」
三人は、菜々花の初節句に 母方から贈られた親王飾りと三人官女、五体の並ぶ雛壇の前で写真を撮りました。
「じゃあ『桃の節句の女子会です』って送ります」
「そうね、今どき三月三日は『上巳(じょうし)の節句』なんて言ったら、上司は男だ!ってお笑いにもなりゃしないわね」
「…… お母さんって……」
和やかな中で 母と祖母は、菜々花が邪気にあわず、穢れ(けがれ)をはらい、優しく可愛い女の子に成長して欲しいと こころで願った日でした。
ぼんぼり ほのかに……
― 了 ―