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大地は雨をうけとめる 第1章 跡継ぎ娘の憂鬱

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 一方、その跡取り娘は自室で侍従に監視されながら、再び食事をしていた。ソニヤとエクネは自分たちの食事に行ったのか、いなかった。給仕も食事を持ってくると、さっさと下がってしまった。
 きっと砂をかむような顔をして食べているに違いなかった。料理はなかなか減っていかない。あいつも嫌になってるんだろうな、と考えていた時、ぼそっと、アニスが言った。
「食べさせてあげましょうか?」
 心臓が飛び跳ねて天井を突き破っていく、ような気がした。
「冗談です。そんな、暗闇で化け物に出会ったような顔しないでください」
 すねたようにそっぽを向いた。そういう時の彼は子供らしかった頃の面影がちらりと見える。それから、ふっと視線を落とし、再びルシャデールの方を向いた。
「昔、食の細い妹によく食べさせてやりました」
 彼の妹は六年前に四才で亡くなっていた。豪雨による土砂崩れで家ごと潰された。両親もその時に失っている。
 その話が出ると、ルシャデールは何と言っていいかわからない。黙り込んだ彼女に、アニスは穏やかに微笑った。
「気にしないでください。もう、大丈夫ですから」
「うん」
 トマトとピーマンと豆の煮物を口に放りこむ。その時、ふと思い立って、たずねた。
「そういうことを、彼女にも言ってるの?」
 今度はアニサードの方がぎょっとした顔をする。何を驚いているんだ。
「めっそうもない!」
「ふーん。してるのかと思った」
「そういうことは、新婚の夫婦がするものです」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
 私は小さい妹みたいに面倒みてやらなきゃならなくて、彼女の方は……女として見ているのか。
「だいたい、おまえが言い出したんじゃないか」
 急に腹が立ってきて、彼女はスプーンを置いた。
「もういい。下げて」
 アニスはそばに寄ると一礼して盆を下げた。立ち上がり、踵をかえす時に外衣をひるがえして出て行った。
 彼はこれから食事だろう。ルシャデールが食事を終えないと、彼は空腹のまま侍していなければならないのだ。
(よくわからない主人だと思っているんだろうな。でも……自分でもわかってないんだ)
 ふーっと、溜息が出た。