Riptide
最初が聞き取れなかったようで、酒井は顔をしかめた。
「何? 棚ボタ?」
三咲は宙を仰ぐと、呆れ返ったように目をぐるりと回した。
「七夕だってば。同じ世界に生きてる?」
酒井が、大きな塊が棚から落ちてくるような仕草を手で伝えたとき、三咲は、棚からごろりと落ちてくる人間の頭を想像して、くすくす笑った。
三脚ケースの中身は、頭径四十三ミリの両口ハンマーと、バトン型のスタンガン。酒井は、それをケースごとリュックサックの中に入れると、エストウィング製の手斧を手に取り、柄が手前になるように、並べ替えた。三咲は、ポケットに突っ込んだナイフで十分と言うように、胸を張った。
「はーやーくー」
水は、新品のペットボトルが二本残っていた。それを無造作に放り込んだ酒井は、ずっしりと重くなったリュックサックを背負うと、そのまま歩き出そうとする三咲の肩を掴んだ。
「千夏」
三咲は思い出したように、酒井が差し出したサロモンのブーツに履き替えた。酒井はずっと履いていたオークリーのブーツごと足首をほぐすと、歩き出した。トンネルをくぐって、林を見上げた三咲は、袖をまくりながら言った。
「あの柵みたいなの、何かな?」
「多分、イノシシ避けだな」
二人は小石を器用に避けながら、林の中に入っていった。