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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Riptide

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「いないのか? あと十分ぐらいで戻れる。港にいる?」
「いや、巻田さんとすでに探し始めてるんだ。行きそうな場所を、可能性の高そうな方から探ってる」
「逆から探すよ。どこからだ?」
「山の上にある廃墟、林の順番で頼む。林はおれたちが先に着くかも」
「オッケー。じゃあな」
 村井が電話を切るのと同時に、研吾は言った。
「村井が、反対側から探してくれます」
 車中に、少し安堵したような空気が広がった。研吾にとっては、昔からの友達である村井の、素早い理解力が有難かった。勝俊はハンドルを握りながら、警察官の会話から聞き取った言葉を、頭の中で繰り返していた。
『逃亡犯。宇多陽介、上谷修司、高石玲奈』
     
 サイドステップが地面と接触し、白戸は一瞬バランスを崩した。支給されている原付は、後ろに県警の署名が入った大きなリアボックスがついている以外は、特に市販品と変わりはなく、のんびり走っているときは何ともないが、急ぐと途端に綻びが出る。記憶に残ったハイラックスの真新しい傷が、ずっと集中力を削いでおり、気を抜くとコーナーのたびに転倒してもおかしくはなかった。まっすぐ走るのが目的ではなく、道端に何か異状がないかを調べる必要があるから、尚更だった。
『向いてるのか?』
 それは、白戸が大学時代に警察を志したとき、祖父が最初に発した言葉だった。孫に対する心配であったり、かすかな期待であったり、そういったものは全くなかった。ただ、このハンマーでこの釘を打てるのかというような、道具に対する素朴な疑問のように、その言葉は乾いていた。高校を出るときは、警察に入るなどとは一切言っていなかったから、そう思われても仕方がない。警察学校では、頭と体力の両面において全てが並の中の並で、人間関係で悩むこともなく、むしろ射撃訓練は得意で、上級で卒業したぐらいだった。しかし、警察学校を卒業できたからといって、適性があるとは限らない。あくまで、警察官になれるというだけだ。
 県警本部への引継ぎが始まったら、ハイラックスの件を伝えて、警官は辞める。白戸は、ヘアピンを抜けて加速しながら、そう決心した。
 対向車線側の歩道に、横倒しになった自転車が見えて、白戸は急ブレーキをかけた。スタンドを立てて原付から降りると、自転車のフレームに書かれた『隅谷明弘』という名前を見て、神社を見上げた。石段に足跡が複数。辞めると決めた途端に、目の前で何かが起きた。とてつもなく悪い予感に襲われた白戸は、石段を全速力で駆け上がり、柵の手前で倒れている明弘を見つけた。仰向けにすると、胸が動いていて、息をしているのが分かった。
「おい、隅谷くん!」
 声をかけると、一瞬体が動き、何度目かで、ようやく明弘は目を開けた。白戸の顔を見るなり、言った。
「……、シロさん。触ったらだめです」
「何を?」
 白戸はそう聞き返したが、すぐに目の前の柵に視線を向けた。明弘は体を起こすと、体についた土を払った。
「電気が来てました」
 白戸は、明弘の右手に軽いやけどの跡があるのを見て、つま先や逆側の手など、電気が抜けそうな場所に目を走らせた。大きな怪我はしていないようで、明弘は白戸よりも先に立ち上がった。
「中に、正人がいるんです」
「林の中に?」
 白戸は懐中電灯で中を照らそうとしたが、先にやるべきことを思い出して、私用のスマートフォンを取り出した。田井の自宅の番号にかけたが、すぐに留守電に切り替わった。『白戸です。柵の電気を切ってください』とメッセージを残し、電話を切った。
「田井さん、いないのか……」
 白戸がそう呟いたとき、明弘は待ちきれないように、早口で言った。
「反対側から入れます。田んぼの側から」
 白戸は、石段を飛ばしながら走り始めた明弘の背中を追うように、急いで山道に下りた。明弘は、横倒しになった自転車を起こすと、言った。
「田んぼから上がって声を出せば、絶対聞こえます」
 白戸はその様子を見て、明弘が自分でそれをやろうとしていることに気づき、手で止めた。
「病院に行ったほうがいいよ」
「大丈夫です。あっ」
 明弘は原付を指差した。
「あの、乗せてってくれませんか」
 白戸は、その現実感のない言葉に、一瞬笑った。ピンクナンバーだから、二人乗りは可能だ。しかし、警察官がノーヘルの子供を後ろに乗せて走る? 見つかったらなんて言われるか、想像もできない。そこまで考えたとき、白戸はふと思い出した。どの道、これが終わったら辞めるのだ。
「分かった」
 白戸は原付に戻ると、エンジンをかけた。放っておいたら、明弘は自転車で勝手に思った方向へ向かうような気がする。田んぼ側にある公民館に預けて、林に向かう道を上がればいいだろう。記憶の通りなら、頭上を木が覆う、薄暗い道だった。墓地を抜ければ、やや近道になる。考えがまとまり、白戸が明弘に乗るよう促そうとすると、すでにステップへ足をかけていた明弘が、後部座席に腰を下ろして言った。
「シロさん、早く」
作品名:Riptide 作家名:オオサカタロウ