本の妖精リセラ
本の光は少しずつ強くなってゆく。それと同時に、店主の胸のあたりから同じ色の光が広がりはじめていた。
リセラはそれに見入った。
本と店主の両方から光がひろがり、ランプのあかりがうすれてゆく。
こんなことって、あるのだろうかと、リセラはおどろきで声もなくしてしまう。
店主が本を手に取る。
部屋中にひろがった光はリセラをからめ取り、身動きさえ出来なくなってしまう。
この本は、店主のものだったのだと、リセラは思った。こんなにも強い結びつきは、リセラもはじめて見た。このことに気がつかなかったなんて、妖精失格だとリセラははずかしく思った。
光に包まれたまま、店主が表紙をめくる。表側ではなく、裏表紙を。
店主の目が光っている。それは、なみだだった。
そして、つぎの空白のページの裏に書かれた文字。そこに浮かび上がったもの。手書きされたきれいな字。
名前。
そうか。そうだったんだ……
リセラは、店主の名前を呼んだ。
もうずっとむかしのことで忘れてしまっていた。いや、そうではない。リセラとして生まれてからずっと、知らなかったこと。
店主が、本に書かれたひとの名前をつぶやく。
光の中に溶けてゆきながら、リセラはそっと返事をした。
――わたしは本の妖精リセラ。本と人を結び合わせるのが仕事。この店が出来てから、ずっとここにいた。あの本も、ずっとここにあった。わたしは本の妖精。
彼の、たったひとりの……