異世界で壁ドンを
「お前もすっかり腑抜けにしてからゆっくりラーハとタラークを亡き者にして魔界の頂点に立とうと思っていたが、覚醒してしまったのなら仕方がない、来い! カナータ!」
「行くぞ! マーマ、お前の思い通りにはさせない!」
たちまち始まる戦い、『悪魔の怒り』を手にした魔女マーマも中々の手練れだが、魔法使いミーナの力を借りたカナータはマーマを徐々に追い詰める。
「貰った!」
一閃、『神の怒り』がマーマの体を真っ二つに……だが、崩れ落ちて来たのは魔女の衣装だけ、マーマは跡形もなく消えていた。
すると、水晶玉を見つめていた賢者ルキアが叫ぶ。
「マーマはエコマ国だ! とっさに転生したんだ」
「くそぉ」
「あたしたちもこうしてはいられない、みんな、あたしの手を取って、あたしたちもこれから転生よ!」
「おう!」
全く……勇者も楽じゃない、忙しいったらこの上ない。
この世界で普通の高校生として、壁ドンしたり食パンをかじりながら自転車を走らせて暮らして行くのも悪くないなぁとも思う。
「いてっ」
だが、そんな頭の中を見透かしたのか、ナナに尻をつねられた。
そう、俺は勇者カナータ、覚醒したからには戦うのが俺の使命だ。
また血沸き肉躍る日々が帰って来る……それはそれで悪くないじゃないか。
「みんな、準備は良い? 転生、行くわよ!」
ミーナが魔法を使おうとしたその時だ。
「待って! あたしも連れてって!」
飛び出して来た者がいる。
「お前は美術部の萌!」
「いいえ、あたしは絵師・エーモ、せっかく異世界ファンタジーに学園物を取り入れて、壁ドンまで入れたんだもん、どうしたってイラストレーターが要るでしょ?」
終