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天空の庭はいつも晴れている 第6章 アニスの探索

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 ルシャデールはベッドの端に座り込んだ。
「アニスがこの屋敷に来たのは偶然じゃなかった……」
「偶然なんてこの世に一つもないぞ」
「デナンはアニスの父親を知っていたみたいなんだ」
「そうか」
「アニスはそのことを知らないと思う。だけど、デナンはずっとアニスを気にかけていたのかもしれない」
 ルシャデールはため息をつき、そのまま後ろに倒れこむ。
「まともな親にはまともな知り合いがいる。ろくでもない親の周りにいるのは、やっぱりろくでもない奴ばかり。でなけりゃ、誰もいないか」
 ルシャデールはカズックの方に顔を向けた。
「『神様』はそういう奴らに何もしようとしないんだね」
「届かないことが多いな」カズックは少し顔をゆがめた。「おまえが言う『ろくでもない奴』に、おれやユフェリにいる連中の声は届かないことが多い。聞こうとしないしな。だから、坊さんや巫女さん、おまえのようなユフェレンが必要なのさ」
 カズックの口調には、どこか悲しげな響きがあった。

 次の日、アニスはドルメンでルシャデールを待っていた。
 けさ、目が覚めた時の困惑はまだ続いていた。昨夜、確かに薬草庫に閉じ込められていたはずなのに、いつの間にか西廊棟の自分の部屋に戻っていた。もしかしたら薬草庫に忍び込んだこと自体が夢だったのかと思ったが、小テーブルの上にはマルメ茸とヌマアサガオが布に包まれて置いてあった。
 とすれば、誰かが部屋へ連れてきてくれたのだろうか? 誰が?
 足音がして、振り向くとルシャデールとカズックだった。
「ばーか」開口一番、彼女は言い放った。それから、夕べ何があったか話してくれた。
「デナンさんが……」
「なんだ、何にも聞いてないんだ。デナンと話をすることはないの?」
 アニスは首を振った。食事の時ぐらいは顔を合わせるが、言葉を交わすことはなかった。
「デナンさんは御前様のおそばにいる方だし、僕なんかとは違います」
「ふーん……で、首尾は?肝心の物は手に入った?」
 アニスはかくしから布の包みを出し、開いてみせた。傘の真ん中に丸く黒い模様が一つ入っている白いきのこが二つと、黒いヌマアサガオの種だ。
「もしかしたら、デナンさんはこれを見たんでしょうか?」
「あの人、私たちの計画に気づいているよ。何をしようとしてるか、この二つを見ただけでわかったんじゃないか」
「……」
「でも、何も言わない。なんでだろうね」彼女は片頬を上げて笑った。
 アニスにはそれをどう受け取っていいのかわからなかった。僕童ふぜいが御寮様をユフェリ行きに利用したのだ。とがめられて当然に思えた。だが、ルシャデールはそれほどデナンのことを気にはしていないようだった。
「大丈夫、あの人は邪魔しないよ」
「大丈夫って、御寮様……昨日もそうおっしゃったけど」
 アニスは苦情を申し立てようとする。
「うるさい!」ルシャデールはさえぎった。「私は邪魔は入らないって言ったんだ。それは当たっていただろ。閉じ込められたのは、おまえがのろまだからだ。心配してデナンと迎えに行ったら、ぐーぐー寝てるし。それに、結果的には薬草も取ってこれたじゃないか!」
「はあ……」まくしたてられて、アニスは黙る。 
「あとは、いつ、どこで実行するかだ」
「ドルメテ祭の時はどうですか?」
 アニスが言った。夏至の日をはさんで五日間行われる祭りだ。
「その間、御前様はお祭の御用がありますから、お屋敷を留守にされます。もちろん、デナンさんも一緒です。それで、僕たち召使は少しのんびりした感じになるんです」
「気が緩むってこと?」
「はい」
 常日頃の生活態度については、家事頭がいつもうるさく使用人たちに言っている。酒は飲むな、たばこは体の毒だ、賭け事は人生を狂わせる、悪所通いは病気をうつされる……。どれも子供のアニスにはあまり関係ないが、それでもよく忠告やら戒めの言葉などをもらう。
『仕事は常に三歩先を考えて行わねばなりませんよ、アニサード。そうすることで、効率的に動くことができ、同じ仕事をしても疲れ方が少ないのです』とか、『物事は一つ一つ終わらせてから、次のことに移りなさい。ねずみの食べかけみたいなやり方はだめですよ』などと。
「普段厳しい家事頭さんも、ドルメテの時は大目に見てくれるんです」
「うん、じゃあ祭りの時にしよう。薬草はどこで煎じる?」
 アニスはちょっと考えた。人に見つからないところとなると、このドルメン以外に考えつかなかった。
「ここがいいと思います。ただ、煎じる時、まるっきり誰もついていないのは心配なんですが。僕は仕事がありますし、御寮様見に来れますか?」
「午前中は勉強がある。午後なら来れるだろうけど……。カズック」
 ルシャデールはそれまで黙っていた犬の方を振り返った。
「おれにやってくれっていうのか?」
「頼むよ」
「お願いします」アニスも手を合わせて頼みこむ。
 仕方ねえな、とカズックは承諾してくれたが、それほど嫌そうではなかった。
「必要な道具はそろえてくれよ。煎じるための土瓶やラペム、燃料は……とろ火にするなら炭団《たどん》だな」
 ラペムは携帯できる簡易コンロだ。土製で炭団や炭を入れて煮炊きをする。
「それは僕が用意します。心当たりがあります」
「土瓶は?」
「探してみます」
「うん」
「うまくいくんでしょうか?」
 少し不安になってアニスはたずねた。
「いくさ、きっと」
 ルシャデールは笑みを浮かべて言った。